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『演じきれぬもの自殺未遂に似て』の話。

短い青春に傷だらけな胸かかえて、自殺未遂、毎日やりたい。


草間彌生 『マンハッタン自殺未遂常習犯』

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 ごたぶんにもれず、その夜は(録画して試合終了の数時間後にだったけれど)内藤大助×亀田大毅の一戦を見つめていて。

「やっぱり揺らがない強さだよね世界チャンプっていうのは」

 というのが感想で。
 亀田大毅の反則は確かに目に余ったけれど、大舞台で勝つことだけ考えていた十代の選手が追い詰められて、パニックになった様子は手に取るようにわかったし、そこで反則に逃げた幼さには苦笑はしたものの、翌日になってライセンス停止だとかそんなニュースになるとは思わなかった。

 ボクシングコミッションの見解としては、総合格闘技などに圧されて観客動員数の減るいっぽうの業界が、ファンの期待に応えられなかった、ファンを不快にさせたということを重く見ているとか。
 でも、あの追い詰められてキレちゃった亀田大毅のふるまいというのは、会場のファンが最初から大歓声で世界チャンプの勝利を願っていたのを見てもあきらかなことに、まさしく期待通りのものだったとも言える。少なくとも私にとってはそうだった。最速で世界戦に到達した汚く吠えまくる若者。それを迎え撃つ遅咲きの王者。ドラマの構造として、カタルシスは王者の勝利でこそ生まれる。
 まして、若き狂犬が反則行為を繰り返すのを、熟練した職人技をもって王者が正攻法でしりぞけるなどというのは、いっそブックを組んだプロレスの試合のように良くできた舞台だった。

 それでも、亀田大毅は処分される。
 兄の次試合も流れ、亀田家のピンチとなった。
 今朝の新聞によれば、父はもうだれのセコンドにもつけないのだという。
 ボクシングに人生を捧げていた人に、その処分が与えられ、それを聞いて「ざまあみろ」と思うファンがいるのだとしたら、私はそのほうが哀しい。どんな人間にもチャンスを与えるのが格闘という競技だと私は信じたい。むろん、競技に対する愛を忘れたヤツに罰は必要だとは思うけれど。回復不能な罰というのはどんなもんだろう(それとも無期限停止というのは無期懲役と同じもの? 素行が良ければ出所できたりするんだろうか)。

 これはやっぱり世界戦だったということが大きいので、世界的に見れば耳をかじったとかそういう常軌を逸した反則はともかく、最終ラウンドで熱くなった若者がレスリング行為で相手を投げたからライセンス剥奪なんていうのは、処分するほうが大人げない感じさえするんだけれど、この国では大衆の支持を得る。

 荒っぽい外国人横綱に「チャンプとしての品格がない」から試合をさせないことにしてしまう、そういう精神論がまずありきの競技が国技である国なのだから、世界に挑む若者が期待通りに未熟だったからもう試合させないというのもアリなんだ。

 ところで、元ボクシング、元キック、などという世界でつまはじきにされた選手が総合格闘技のリングを盛り上げているという現実は確かにあって、ボクシング業界も所属選手が総合の試合をすることは禁じているくらいなのだけれど「ボクサーとして品位が足りない」からと選手を処分していたりしたら、それこそ品格のない強いボクサーがほかの業界にかっさらわられる結果になりはしないかとボクシングファンでもある私としては危惧してみたりもするわけで。去年の大晦日、躯をぬるぬるにして拳に鋼鉄を詰めた男がカリスマをボコった事件があったが、あの彼は一年を待たずリングに帰ってくるという。彼もまた柔道界で疑惑をもたれ続けた人で、総合のリングに移っても競技への愛のなさを全国中継で見せつけたにもかかわらず、いまだクビにはなっていない。ボクシングという競技の神聖さも大事だとは思うが、暴れん坊は総合へ行け、というような小綺麗なエリートのスポーツにボクシングが成り下がるなら、それこそファンは離れていくでしょう。

 相撲の世界で育てられたけれど厳しすぎるので辞めますと辞めてプロレスラーになったけれどプロレスラーは貧乏で総合格闘技の賞金は大金だということで大舞台に出場したら大物に勝ってしまったレスラーがいる。

 安田忠夫。

 ギャンブル好きで「借金王」というキャラクターを演じプロレスリングで暴れるものの、それがアングルではなく本当に実生活でも借金まみれで家族にも逃げられ、2001年に格闘技デビューしてみたら佐竹雅昭に勝ってしまい、その年の大晦日には「INOKI BOM-BA-YE 2001」に出場、ジェロム・レ・バンナ(とても強い人。番長と呼ばれる)にまで勝つ。その大晦日、紅白から涙もろいお年寄りを呼ぶ戦略だったのかなんなのか「借金王安田が14歳の娘と再会」というアングルが組まれ、だれも予想していなかったバンナに勝つという偉業をなしたあと、再会した娘をリング上で肩車した姿には、不覚にも私もうるんときた。

 あれから数年経ち、あの少女はレースクイーンになってブログを開設。
 そのブログで今月初め、家族の緊急事態が起こってイベントに出られなくてゴメンと書きつづられた(現在その記事は削除されている)。
 後日、その緊急事態というのが父親のことだったとわかる。

 安田忠夫、練炭自殺未遂。

 知人に発見され、病院に運ばれ、借金王は言ったとされる。

「確かに睡眠薬は飲んでいた。あの日はとても焼肉を食べたかったけれど、ガスは料金未納で止められている。それで七輪をふたつ入手したところ今度は肉を買う金がなくなってしまい、ひとりむなしくエア焼肉を楽しんでいたら不覚にも眠ってしまった」

 ……安田忠夫は、アントニオ猪木が旗揚げした『イノキゲノムフェデレーション』で、立て続けにジョシュ・バーネット、マーク・コールマンに瞬殺されている。かつて所属団体を素行の悪さからクビになり、新天地に向かったがその弱小団体は興業中止、またしてもアントニオ猪木に救われたカタチになってはいたものの、猪木の創設した新団体はガチを基本とするため、正直なところだれも安田忠夫に期待なんてしていない。
 だから自殺未遂?
 あいかわらず、借金は減っていないらしい。
 だから自殺未遂?

 目覚めてすぐに「入院費用は?」と娘に訊いたとか、その後のコメントの軽さから、再びマスコミの注目を集めるための自作自演のアングルなのではないかという声も聞かれるが、警視庁田園調布警察署から「多量の睡眠薬を摂取していて脈はあったが意識はなかった」という公式見解が出ているので、事故にせよ自殺にせよ、安田が逝きかけたのは本当のことのようだ。
 まったくもって、それこそファンの期待を裏切る行為というものだ。

 ボクシングをプロレス的に演出した亀田家の失敗は、大声で反則を指示したことだった。王者はまぶたを切っていたのだから、追い詰められた挑戦者の側としては「目を肘でねらえ」と耳打ちすることは、いけないことだけれど戦略上ファンも許容できたのに。テレビ中継されているのに、叫んじゃいけない。

 「借金王」というキャラクターを演じるプロレスラーが、本当に借金に苦しんでいてもそれはかまわないが、それを苦にして自殺未遂事件を起こすのは許容できない。

 自分は見せ物である、という自覚。
 キャラクターを観客が許容できる範囲から逸脱させないこと。
 結局のところ客商売の最たるものでしょスポーツって。
 だったら、演じきらないとダメなんだ。

 追い詰められて、観客に見られていることを忘れた。
 ぶざまな演者たちを見ていたら、草間先生のことを思い出した。
 不安定すぎる自分を描くことでカタチ作った人。
 揺るがないキャラクター。
 これが人生のチャンプって感じ。

 『Yayoi Kusama Official Site』

 自殺未遂やりたいわぁ、とか言いながら裸に水玉描いて街に出た彼女の青春を、そしてそのまま老女に至った立ち居振る舞いを、見習いたいわぁ、とギスギスした亀田家を見つめながら、本当に逝きかけた安田忠夫を思いながら、自分をも振り返って思ったのでした。

 死にたくなんてない。
 ただ限界ぎりぎりで、あと一歩いったら自分が壊れてしまうというラインで、華麗におどりたい。
 華麗にってとこ大事。

 リングで見たいのも、そういうのだな。
 見ている側の華麗さも必要だと思う。
 亀田家に期待する。
 一年、私は待ってるよ、弟。
 本物の亀田の強さを演じて、兄。
 安田忠夫にもむろん期待しています。
 ぶざまじゃないの、魅せてほしいよ。
 真似できねえほど、ぎりぎりでカッコイイの。

kusama

(ところで安田がアングルでなく本当に借金で死にかけたということを聞いて、私は首をかしげてしまったんだが。家族を失って賃貸のガスも止められたアパートでひとり暮らしで、世間的にすでに「借金王」という肩書きで私生活が公表されていて、仕事は現在どこにも所属しないフリーの格闘家。世の中のだれよりも身ひとつで生きていけるスポーツ選手が、本当に自殺するほど借金を背負っているのだとしたら、どうして自己破産しないんだろう? 実質上の後見人であるアントニオ猪木が「刑務所で更生するのも一案だ」と発言したらしいが(自殺未遂した男にかける言葉でもないと思うが)、その師匠の言葉から察するに彼には破産するとかそういった発想がないようなので、安田もそれに洗脳されてんじゃないかと思う。だれか言ってやれよ。無一文になってブラックリストに載って、だれからも借金できなくなったらギャンブルもできないだろ……ああ、でもそうすると新米プロレスラーあたりから巻き上げるのかな……でも死ぬって。そんな選択肢ないだろう、一度でも観客の前に立った者は、その身も心も永遠に観客のモノでもあるんだ。ほんと立ち直れよ、安田忠夫。元チャンプ。私の安田を勝手に殺すな) 

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クロムハーツ ネックレス  クロムハーツ ネックレス  2013/10/23 14:03
『とかげの月/徒然』 『演じきれぬもの自殺未遂に似て』の話。