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『プロレスの神様』のこと。

 カール・ゴッチは、名言の数々を吐いたことで知られる。それは彼自身が「生まれ変わったらレスラーになって私のような指導者のもとにつく」と言い切ったように、現役を退いてからの指導者としての影響力が色濃いからでもあるだろう。日本のいまのプロレス・スタイルが欧米のそれと微妙に違うことついて、ゴッチの影響がなかっただなどという人はいないはずだ。「富も名声も必要ない、私には追い求めるレスリングがあり、それはいまのプロレスでは受け入れられないというだけだ」……そう言ってゴッチは、自らの理想をこの国に置いていった。いま、それはひとつの形として花開いている。日本の様式美と呼んでもいいブック重視のプロレスは、いまや欧米に真似される存在になった。「歌ったり踊ったりするのはプロレスラーじゃない」と吐き捨てたゴッチは、WWEのトップレスラーが日本の王道選手のスタイルを真似ている現状に、あっちでほくそ笑んでいるかもしれない。

 (まあ、カール・ゴッチが高田延彦を「キック・ボーイになっちまった」と言ったことからも、蹴り主体のプロレスというものはゴッチイズムには反するかもしれないので、逆に「日本のプロレスを忘れるな」と叫んでいるという可能性もあるが)

 器具を使わない。
 薬を使わない。
 自らの肉体で自らの肉体に負荷をかけ鍛える。

 簡単に言えば、それが「ゴッチ式」と呼ばれるトレーニングである。毎日腕立て伏せと腹筋を欠かさないが鉄アレイは買ったことのない、私は多分にゴッチ式信奉者と言っていいし、そういうひとりとして言うならば、なぜ効率を追い求めてはいけないか、ということの答えがそれである。

 Life is simple.

 ゴッチ哲学の基本はこれであり、これがすべてだ。
 人生は単純なものだ。
 なぜ自らややこしくする?
 富と名声に興味がないと言いながら、カール・ゴッチの発言にはやたら金の話が絡む。それは、彼自身が、そして彼の指導するレスラーたちが、そこにこそ足をつまずきやすいと知っているからだろう。印象的なセリフがある。自らの妻について聞かれ、自嘲気味に「おれみたいなのと暮らすのは彼女も大変だったと思うよ」と前置きしたあと、しかし、言い切った。

「1ドル稼いで帰ろうが、それが1000ドルだろうが、どちらもおれがベストを尽くした結果だと彼女はわかってくれた。おれにはおれのレスリングがひとつあり、愛する女性がひとりいた。おれは幸せな男だ」

 そのあと、彼は言い足すのだ。
「人生は単純だ」
 ──と。

 そう思う。
 それを幸せだと言わずして、なにを言う。
 私はWCWというショーアップされたプロレス団体が好きだった。
 その時代に生きていたゴッチは、それはプロレスではないと言った。
 私はどちらも好きだった。
 どっちもプロレスだと思っていたし、いまもそう思っている。

 若き日のカール・ゴッチは、カール・クラウザーと名乗っていた。
 AWA世界ヘビー級王座を獲ったりもしたが、アメリカンプロレスのなかでは、ぱっとしない存在だった。
 一説では、あまりにゴッチが「真剣すぎて」対戦者がいなくなったという。
 その後、アメリカンプロレスはゴッチの嫌うWCWそしてWWEの時代となり、半裸で踊る女性たちに彩られた歌って踊るプロレスラーたちが、プロレスラーだということになった。
 カール・ゴッチが、決して忘れるなという三大原則がある。

「決してうそをつかない。
 決してだまさない。
 決してやめない。」

 ブックというシナリオのあるリング。
 事前に決定している勝者や決め技。
 アングル──演じる、確執。
 ゴッチイズムは、相容れなかった。

 しかし、だからこそ私はカール・ゴッチも好きなのだ。ショーとしてのプロレスが大好き。でも全身全霊全人生をかけて「そんなのはプロレスじゃない」と言い続けた、そのカール・ゴッチの生き様が、あまりに妥協なくかたくなで一途であるがゆえに……皮肉なことに、それもまた見せ物として成り立っているのである。9歳からプロレスを始めたといわれるが、清掃員の仕事で生計を立てていた時期もあり、プロレスラーとしての輝きはそう華々しいものではない。しかし、それもこれも、彼が自身の単純明快な哲学をいっときも忘れることなく生き続けた、証明としていまでは映る。

 人生は単純だ。
 プロレスラーの仕事はプロレスを観客に魅せること。
 人間の可能性を魅せること。
 追い求めることをやめてはいけない。

 Never lie,
 Never cheat,
 Never quit.
 Life is simple.

 これ以上むずかしくするな。
 しないで、生き抜いた。
 人は揶揄するように、
 けれど心からの畏敬の念も確かに込めて、
 彼のことを、こう呼ぶ。

「プロレスの神様」

 カール・ゴッチが逝った。
 享年82歳。
 アメリカではほとんどこの死さえ報道されていないようだ。
 けれど、この国には、彼の魂に魅せられた人々がいる。
 神の残したものは、ここにある。
 私のなかにも、ちゃんとある。
 観るのは大好きだが、自分の人生ならば。
 やはりズルしていただきウケるように演出……
 ではなく。

 ゴッチ式で。
 がつんと生き抜きたいものです。
 あなたの追い求めたプロレスを、
 私に与えてくれてありがとう、と心から。
 あなたがやめずに、伝えようとしてくれたからなんだ。
 見ていてください。
 私の神様。

 (でも『無我』はあんまり好きじゃなかったりする……そのあたりがむずかしいプロレスファンなのです。鈴木みのるは好き。ゴッチイズムを胸に、自らは進化しないといかんよ。あくまで護るべきは魂なんだ)

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