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『春餅/チュンピン』のこと。



「なくなっちゃったね」
 
 カラになった瓶を見つめ、ため息をつく。
 それは、濤(トウ)が瑞賢(ズィハ)を追ってこの街に来たとき、リュックに入っていた唯一の食べ物だった。
 
「どこかに、売っていないかな、ズィ。豆のまんまでもさ」
 
 小さく肩をすくめ、瑞賢は首を振った。
 仕方がないさ、というように。
 簡単に、あきらめてしまったかのように。
 濤には、この街にはなんでもあるように思えるのだが、いまだ言葉もカタコトの身では、近所のスーパーで買い物をするのが精一杯だった。
 それでさえ、一言も話さないのに、肌の色も変わらないのに、なぜだか自分の正体がばれて、じろじろ見られていることを確信する。
 瑞賢に言うと、この街のだれも他人のことなど気にかけてはいない、と断言されるのだけれど、濤は、人間はどういうふうに生きたってどこで暮らしていたって、まわりにいる他人のことは見ているし、よそ者は嫌われるものだと信じていた。
 見た目が同じでも、自分にはまだ、よその土地の匂いが残っているから、ばれるのだ。
 でもそうならば、この瓶がカラになったことで、ぼくのよそ者の匂いは薄らぐかもしれないな、と皮肉に思う。
 
「でも、豆が売っていないわけがないよ」
 
 スーパーでも見かけた。
 濤は自分が持ってきた瓶の中身の作り方を詳しくはわかっていなかったが、祖母が作っているのを横から見たことはある。
 
「この街は湿気ている。豆は味噌になる前に腐ってしまうさ」
 
 瑞賢は、春餅(チュンピン)の最後の一枚を、竹スダレのうえから取り、いらないのか? と濤に示して見せた。
 濤が首を振ると、瑞賢は一瞬だけカラの瓶に視線をやり、また小さく肩をすくめて、豆板醤だけを塗った春餅に、残った鶏の照り焼きひとかけらと、白髪ネギをのせて巻いた。
 濤は、豆板醤も、この街に来て初めて食べた。
 カラいので、あまり好きではない。
 
「甜麺醤なら、百貨店に売っている」
 
 瑞賢が言ったのは、むくれている濤を見ながら最後の春餅を食べるのがイヤだったからに違いなかった。
 でも、濤の瞳は、それで少し輝いた。
 
「テンメンジャン? なにそれ」
「同じ大豆から作る豆味噌だ」
「なに、同じのがあるの?」
「麹(こうじ)が入っている。トウが持ってきたのとは違う。本当の味噌だ。この街の店では、春餅にそれを塗って食う」
 
 濤は、麹がなんであるのかはわからなかったが、自分が幼いころから食べてきたものと、この街で手に入るよく似たものは、まったく違うものなのだということは理解できた。
 そしてそれよりも、瑞賢がこの街で、この部屋の外でも春餅を食べていたことに動揺した。
 春餅が、こんがり焼いたアヒルの皮だけを剥ぎ取って食べるバカげた料理にも使われることは知っている。
 しかし、濤にとっては違う。
 それは毎年の春、最初に畑に出た野菜の芽を、つぶした鶏肉と一緒に山ほど包んで食らう……みんなが冬の終わりと収穫のはじまりに狂ったように飲んで踊る、祝いの料理だ。
 それは、実りへの祈りだった。
 この街では、小麦も鶏肉も野菜も、一年中変わらず手にはいる。
 だから、濤はたびたび春餅を作った。
 祝いと、祈りの想いで。
 瑞賢に、食べてもらいたかったのに。
 
「お客さんと、そういう店、行くんだ」
 
 きっとズィは、そのぼくの知らないなにかの入ったこの街の豆味噌でアヒルの皮を巻いた春餅と、ぼくの祈りとを比べていた。
 バカげてはいないが、安っぽい、ぼくのひきずる過去を。
 もう、ズィは捨てた、過去を。
 
「お前も行きたいのか?」
 
 見当違いのことを瑞賢が言ったので、濤は立ち上がり、テーブルをまわって近づくと、振りかぶる動作なしに、瑞賢の頬を打つ。
 辛いだけの春餅をほおばっていた瑞賢は、それを噛み砕いて飲み込みながら、自分の頬を打った濤の瞳に、濡れたものがたまっていくのを見つめる。
 
「……なんだ。これは」
「しらないよ」
 
 言って濤は、瑞賢の胸にくずれるように落ち、首筋に両腕を絡め、声を殺して泣く。
 小さく息を吐き瑞賢は、自分を追ってこんな場所に来てしまった、弟のような恋人の背をさすった。
 
「甘えたいなら、素直にしてくれ」
「だって、ズィが」
「おれが?」
「冷たい」
「……忙しいんだ」
「そんなの、知ってる。でも」

 濤の唇が、瑞賢のはだけたシャツの隙間から、肌を舐めた。

「わかったよ……待ってろ。シャワー浴びてくる」
 
 立ち上がろうとする、瑞賢の躯を、絡めた両腕で押しとどめる。
 
「やだ」
「なにがだよ」
「香水の匂いがする」
「だからシャワー浴びてくるって……」
「やだ」
「なんなんだほんとに、トウ?」
「ズィの匂いも消えるから……いやだ」
 
 それは最後に残った匂いだ。
 もう昔とは違うけれど……だれかの香水の匂いまでするけれど……瑞賢の匂い。
 ぼくに残ったズィの匂い。
 濤は、むさるように口づけた。
 胸に、鎖骨に、首筋に。
 唇に……唇を。
 舌を、からめる。
 カラい、豆板醤が染みた。
 でもやめなかった。
 泣きながら。
 来週もまた春餅を作るんだろうと思った……この街の調味料で、知らない匂いになった祈りの料理を。
 それでも作って、食べるだろう。
 やがて、濤の涙は、声に変わる。
 何度も呼ぶ……まだ馴染めない街の、小さな部屋で……それでもなにものにも代えられないから追ってきた、彼の名を。 
 
「ズィ……ごめん……ズィハっ」
 
 そのあとに、愛の言葉は継げなくて、なにかを祈ることもできないままに。
 ただ、名前を呼んであえぐ。
 確かめるために。
 濤は自らの世界の名を呼び続けて……
 溺れゆく。
 いっときの甘い忘却。

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 Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy
 Song 1
 『Chun Ping』

(吉秒匠
 BL料理哀歌
 1曲目
 『春餅/チュンピン』)

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 日本では「ボーイズラブ」という和製英語で表記されるこのジャンル、英語圏では逆に「Shonen-ai」と表記するようで。当サイトのアクセス解析を眺めていますと、なぜだかこのところ英語圏の検索エンジンからそっち方面の検索をかけてうちにヒットする方々が多い。国内ではあいかわらず料理ネタが無尽蔵に検索されている、みんなほかに興味はないのかよ。『伝言』でも話していたが、この状況はどうにも不本意だ。

 というわけで、アクセス解析の示した顧客のニーズに素直に応える実直な管理人、吉秒匠はこのようにシリーズ化して発信していくことにいたしました。まあそんな大げさなものではないが。日常的レシピ垂れ流し、日本のBL事情が知りたくてなにかを探している異国の子女になにも提供していないなど、役立たずにもほどがありますので、寄せ鍋的に調理してみる一曲目……さあ訳せイングリッシュな腐女子ども(もしくは日本語恋しい異国のジャポネゼル)。日本語を学んでついでに中国料理まで伝授する、なんと親切なサイトだ『とかげの月』。

Become a Yamato-Nadeshiko that
can do the Chinese cuisine by translating Japanese.

If you do so

Shonen-ai of the real (made in Japan)
...fresh Caress... is obtained.

 萌え狂え(笑)。
 というわけで春餅。
 それは文字が示すとおりの春の餅。

 ビールと老酒で収穫を祝うのです。
 アヒルの皮だけ食べるなんてバカげています。
 命はまるごといただけ。
 マクロビオティックや身土不二の思想といった、雑穀と魚を食えアクも取るな身近な命をまるごと食うのだ、的なものがどちらかといえば菜食主義者の宗教じみて論じられている昨今ですが、命をまるごと食うというのなら、やはり肉も卵も喰らうべき。ていうかマクロビを現代で実践するなら、身のまわりにあるものすなわち世界だと思うのです。小さな村で閉鎖的に暮らしていた昔ならば、それは川でとれた魚と畑の野菜で毎日の食事をまかなうのが自然かもしれません。でも、いま身近なものって。現代の身土不二とはマクドナルドでハンバーガーを食べることでは?
 しかしそんな私も、マクロビアンの語る「陰と陽」という考え方は好きです。
 確かに肉とか塩とか熱いものとか冷たいものとか、過剰なのはいけない。
 バランスは大事。
 崩れたら死ぬ。
 そういうことをたまに春餅作って、私もこの私の生きる街で思うのです。

 ニワトリ飼って、キュウリとネギ育てて、豆で味噌作って、唐辛子をがりがり食って、小麦をひいてねって焼いて、それでできるゴチソウ。本当に春餅は御馳走な感じがする。作るのは簡単なのに、それゆえ、単純な材料を人の手が料理に仕立てた、あたたかみがダイレクトに伝わってくる。自分で作ってさえ、そう思う。

 毎日、こういう食事でもいいなあ、と思う。
 スーパーマーケットなんていらないなあ、と思う。
 思いながらグラスを傾け、ぷはぁ、と息を吐いて。
 肝心なことに気がつく。
 ビールの作り方を私は知らない。
 ああだめだ、冷蔵庫のない田舎も、酒屋のない無人島も、私の暮らせる場所じゃない。

 そしてやはりこの街で生きるしかないのだと覚悟を再び決め。
 泣くのをやめて悦びに声をあげながら。
 百貨店で買ってきた甜麺醤と豆板醤をべったり塗って、どこかの国から冷凍されて私の元に届いたニワトリの肉をこんがり焼いて食らう。
 春餅は、そんな料理。
 ていうかほんとに蛇足だな私の小説や文章。
 欲しいのはレシピなんでしょ。
 ほら、もっていくがいいさ。
 作って食えばいいさ。

 嘘です愛してる。
 トウにその言葉は言わせられなかったけれど、好きという言葉さえ嘘くさくて書けなかったけれど、それは言ってしまうと闘えなくなるからだ……トウはあしたもあさっても、その街で闘いつづけなくちゃならないから。私もそうだから。せめて春を祝って祈る料理で、自分がなにを愛しているのか確かめてみてください。
 なぜ、ここにいるのか。
 もっと単純に考えられないのか。
 単純な料理のなかに、見いだして。
 溺れて、眠って、また醒めて。
 明日も闘いつづけるがいい。

 吉秒匠。
 春餅/チュンピン、レシピ。

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●材料
 強力粉400g
 薄力粉50g
 熱湯300cc 

●作り方

cyun

 小麦粉二種を合わせ(中力粉でも可)、菜箸でまぜながら熱湯を注ぎ入れます(写真①)。入れた端から小麦粉が固まりますが、このグルテン凝固が生地をまとめるので、かならず熱湯で。我慢すればさわれるくらいの温度になったところで、手でこねます。台に移し表面がなめらかになるまでこねまくります(10分くらいか。あなたが180キロをベンチプレスで上げられるなら3分でいい)。最後にひとまとめにしてラップで包んで冷蔵庫で30分以上寝かせます(写真②。そのあいだに具材を作りましょう。それらについては後述します)。
 
 ここが春餅の春餅たる醍醐味。寝かせ終えた生地を、棒状にのばし(慣れないうちは時間がかかって生地が乾くので、濡れ布巾をかぶせたボールに生地を入れ、少量ずつちぎって出しては使うと良いでしょう)、端から二切れずつ切り出しては指先で500円玉くらいの直径にのばし、そのひとつの片面にごま油を塗りつけます(写真③。刷毛で塗ってもいいし、小鉢に入れたごま油に直接チョンとつけてもいい)。そして重ね、綿棒でのばします。できるだけ薄く。薄く薄く。重ねた二枚の生地が密着して、もう離れられない一体感をかもしだしますが、それでも二枚のあいだにはごま油という永遠に越えられない壁があるのです(素敵っ)。のばしたところで熱したフライパンへ(鉄製のものがあればそっちのが焼き色はきれいに出ます。油を引く必要はなし)。片面に焼き色がついたらひっくり返します。その頃にはもう、のばした二枚の生地が、もう別れたいと内部から分離をはじめているはずです。両面焼けたら、熱いうちに望み通りに二枚にはがします(ヤケド注意)。焼いては剥がし、重ねていきますできあがり(写真④)。

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 熱いうちに食べるって料理ではないので、休日の夕食のために昼のうちから作っておくのがよいのでは。なにが楽しいといって、ごま油を利用した二枚ずつ焼くという手法。これにより、これ以上のばせないところまで綿棒でのばした生地が、さらにその厚みの半分に仕上がるわけです。油の偉大さを思いますね。オイル交換はこまめに行いましょう。

 具材はニラ玉とか野菜炒めとかが、ボリューム出て食事って感じになりますが。北京ダック風のおつまみを望むなら、だんぜん照り焼きチキンでしょう。

 照り焼きチキン、レシピ。

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●材料

 鶏もも肉一枚。
 しょうゆ 大さじ2
 みりん 大さじ1
 はちみつ 小さじ1

●作り方

 材料を合わせ、鶏もも肉を漬けます。10分くらい。ごま油を引いたフライパンで皮の面から焼きます。焦げ目がついたところで裏返し、肉に火が通ったかなというところで、漬け汁を投入します。あとはからめつつ汁気のなくなるまで両面焼きましょう。

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 キュウリとか、白髪ネギとか、甜麺醤と豆板醤とか。

醤

 添えて出すがよろし。照り焼きチキンも包みやすい大きさに切ってね。巻いて食う料理のなんとウキウキすることか。私もトウと同じく、北京ダックなんてバカげていると思う。これはお祝いの料理だよ。おなかいっぱい食べなくちゃ。でも数十枚の春餅を店で頼むとバカバカしい金額になるので、これは自分で作ってだれかと食べる料理。ソーセージとチーズとか、アボカドとゆで卵とか、タコスを意識した具材でもビールに最適。甘辛く炒めた挽肉なんかも中華極まって良い。

 というわけで一曲目。
 レシピはいっぱいストックがあるけれど、テンションが上がらないので次回はいつになるのか未定です。吉秒匠のやる気を出させてみようかというBL各誌編集者の皆様、連絡お待ちしております。イラストなども随時募集しております。まだまだBLに魅力は感じているのですよ。ちなみに次回予定としては「まだ熟れきっていなくて実がかたいアボカドに手を出してしまったのだけれどなんとかおいしく食べられる調理法はないか」を用意中。すでに二曲目にしてレシピのほうが小説化しやすいように操作されている感は否めません(笑)……ああそうですとも私のヒロインはいつだってショタですよ大人でも。いつか書けるようになってみたい「ゴージャス受」とか。どうでもいいですが「ゴージャス受」という言葉を思うとき、いつも「ライオネス飛鳥」という言葉を思い浮かべてしまうのですけれど、実物はともかく、その名のカタカナと漢字の絶妙なからみ具合が、インパクトあると思いません? そういえば大阪の食堂で「ゴーヤーチャンプルー炒め」というメニューがあって、あれも忘れられないな。店主の親切心なのか無知なのか、わからないところがまた、むしろ「ゴーヤー”炒”チャンプルー」とかにしたほうが近所の大阪プロレスの客とかよろこぶんじゃなかろうかと思ったりするのでした。ほんとどうでもいいが。

 愛こそすべてだ(嘘くさい)。
 ヘンなつっこみを入れるな愛こそがすべてだ!!

 愛してる。

 愛はともかく、春餅は本当においしいです。
 おためしあれ。


 

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【甜麺醤】中華風甘みそ130g各種香辛料を調  中華調味料の厳選紹介  2007/09/16 14:50
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【甜麺醤】中華風甘みそ130g各種香辛料を調  中華調味料への思い  2007/09/04 20:56
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なぜここにいるのか?  大根心の旅  2007/06/28 11:38
自分がなにを愛しているのか確かめてみてください。 なぜ、ここにいるのか。 もっと単純に考えられないのか。 単純な料理のなかに、見いだして。 溺れて、眠って、また醒めて。 明日も闘いつづけるがいい。 http://yoshinogi.blog42.fc2.com/blog-entry-138.htmlお世話にな