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『さようなら道頓堀の映画館』のこと。

 2007/04/19
 本日。

 『なんばパークス』全館グランドオープン。

 そこには、11スクリーン、2164座席を誇る、大シネマコンプレックスがある。
 大阪を知らない人にはぴんとこないかもしれないが、なんばという土地には道頓堀川が流れている。その川もいま、大改修中なのだけれど、その川のほとり、大きなカニとか、食い倒れ人形のとなりに、映画館があった。

 そう──あった。

 2007/04/18
 昨日。

 道頓堀東映(旧、大阪東映)。
 52年の歴史に幕。
 閉館。

 今日と明日は、北大路欣也もやってきて閉館後の旧作上映会。『華麗なる一族』での絶倫親父ではなく、『仁義なき戦い』のカッコ良い北大路欣也として私のなかにもあるが、さすがに初めて観たのはテレビだった。閉館を現地で惜しむのは、あの北大路欣也をあの映画館で観た、歴史の証人たちにまかせたい。

 私にとって最後の作品は、これ。

 『アキハバラ@DEEPとAI人権宣言』の話。

 あきらかに興味ないけど鑑賞券あるから寄ってみた、というような東映株主のおばさまたちや、あきらかに営業外回りの時間を仮眠でつぶそうと入ってきたスーツ族や、とりあえず巡回ルートに入っているので寄ってみた形も色も派手な大阪道頓堀に棲む別種のスーツ族とか、そういったあれから半年経って『アキハバラ@DEEP』のことを訊いても「なんだっけそれ?」と答えるのが明白な観客たちが半分以上を占めていた、道頓堀東映。別に作品のせいではなく、いつでもそうだった。大阪梅田キタの映画館たちが、人種のるつぼなら、大阪道頓堀ミナミの映画館は、ミナミの一部だった。街の一角であり、通り道であり。
 歴史だった。

 あの映画館が閉館した。
 道頓堀民族は、きれいに澄み切った道頓堀のそばで、なんばパークスの小洒落たシネコンに映画を観に行こうと思うだろうか。行かない。だってそもそも映画館に、映画を観に行っていたのではないのだから。私もまた、わざわざ道頓堀に行くのは、そこに、その匂う空気のなかに映画館があるからだった。『アキハバラ@DEEP』の場合は、すぐそばにある、大阪の秋葉原、日本橋電気街を通って、本物のメイド喫茶の前を歩いてから、映画のメイドコスプレ山田優を観た。あの感じ。2000席満員のシネコンでは、あの日本橋のけだるい空気をまとったまま『アキハバラ@DEEP』を観るのは不可能だったろう。

 映画を観終わって、日も暮れた道頓堀に戻る。
 ラーメン屋の店先に、どんぶりで置いてあるすり下ろしニンニクの匂いがする。
 たこ焼きのソースの匂い。
 すぐそこにある路地からは、風俗嬢の香水が匂う……男一人で足を踏み入れようものなら、拉致まがいの手法で店に放り込まれる、魅惑の路地である。振り返ると、なんばパークスが見える。駅前は、別の惑星の近未来都市のような高層ビル群になった。道頓堀よりも、ずっと緑が多い公園のようなビル群。
 新しい街のカタチだ。

 慣れるしかないのだろう。
 巻き戻ることはないし、私も新しい世界のほうが楽しい。
 でも、昭和の空気が薄れていくのも、寂しい。
 そこには絶対に避けられない矛盾がある。

 効率的に土地を使い、人を集める新しい街。
 それは、非効率的な街を不必要なものにする。
 しかたのないことだ。
 わかっちゃいるが。

 さようなら道頓堀の映画館。
 でもやっぱり、何十年経っても。

「ほら、あのミナミの映画館」

 と囁かれて、私が想い出すのは、巨大シネコンということにはならない自信がある。
 さらにもう数十年経てば、空中都市から巨大ビル群を懐かしむ時代も来るのかもしれないけれど。
 人の数は減少に転じたこの国で、街が巨大化する。
 それは、小さな街の消失のあかし。

 さようなら。
 いやおうなく私も新しい街で暮らします。
 映画も観続けます。
 でも忘れない。
 あの、空調の音のやかましい映画館が。
 大好きです。ずっと。
 もう記憶のなかだけのものになってしまったとしても。
 ずっと。

(それにつけても、なんばパークスグランドオープンと、道頓堀東映閉館の両イベントに、両方とも出演している浜村淳氏の柔軟さには感服する。いったいどんな話をするんだろうか(笑)、すげえなあ)

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