最近の記事

スポンサードリンク

月別アーカイブ

『館ひろしとこーれぐーす』の話。

 その瞬間に僕はまた肉体の内側が未知の空隙へ陥没するような強い飢餓を感じた。それは膨れあがりたいという意志を僕に感じさせた。原始の生きもののように、辺りにある力を含むものを無条件に取り込み、血肉にして膨れあがりたい。

篠原一 『月齢』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 父がおみやげでくれたのだが、なににかけてもしっくりこない調味料があって。だいたい、その調味料は「匠が辛いもの好きだったなと思って」買ってきたらしいのだが、琉球泡盛に唐辛子を漬け込んだというものなのに、父は奈良への出張みやげとして買ってきたというわけのわからんもので、問いただすと「駅にあった各地の土産を売っている店で見つけた」ということでそんなもの地元の大阪の駅にもあるし

 まあそれくらい父の印象として私が辛党だということがあって、何気なく目にとまったそれを喜ぶだろうと買ってきてくれたのだからありがたいことではある。先日も実家に寄ったら「伊豆で有名」だというワサビをくれた。またしても伊豆に行ったわけではないらしいのだが

 で、その調味料。こーれぐーす、という。私の職場に「沖縄に通うために働いている」と豪語する人がいて、実際のところ彼女は肌の色がやっと薄くなってきたかなあ、と思うと長期休暇を取って沖縄に行ってしまう。で、私はその人に「旅行嫌い」だと認識されていてそれは事実で私は許されることならば四畳半のワンルームに引きこもって生きたいけれど働かないとクレジットカードが無効になってネットゲームができなくなるというような発言をしているのも事実で、だからなのかなんなのか、彼女は私に沖縄の良さを熱弁してくれる「泳げるんでしょ、ダイビングやりなよ」「泳げた、だね、高校の授業で泳いで以来プールにも海にも行っていないから」「バイク乗りなら遠くに行きたいと思わないの? 沖縄の道まっすぐで信号なくてすごいよ」「皮膚ガンになる」「タバコ吸ってなかったっけ」「酒が入るとたまにね」「生きているうちにいろんなもの見ないと」──ちなみに今月、私が休日を全部つぶして書いているのは男同士のフェラチオに始まりフェラチオに終わる行為のなかで恋が愛に変わる物語で、きみはきみの人生の中でそういう話が売れるか売れないか考えつ一ヶ月苦悩しながら書いたことがあるか? というようなことは大人げないので語らなかったが、まあ人それぞれ人生いろいろである

 その彼女に、こーれぐーすってのもらったんだけど、と言ったら、沖縄の食堂には必ずあるよ、という答えが返ってきて、どうやって使うのと訊いたら返ってきた答えが

「沖縄そばにかけるの」

 というものだった。
 沖縄そばってどんなの? と訊いた私に彼女はさげすんだ目で「食べたことないの」。ない、と思うのだが、私は意外に自分が作る料理が好きなので、どこそこのなにかを食べたとしても、それを自分の料理の中でどう使うかを考えているのであって、どこそこのなにかを食べたというデータとして残らない場合が多い。おかげでよく「一緒に食べたじゃないか」「ごちそうしてやったのに」というようなことを言われたりする。いや違うんだ、おいしいものは好きなんだよ、おいしいものをおいしいものとして愛でることは大好きなんだけれど、いわばなんというか、別にその人が好きだってわかっていれば名前とか肩書きとかどうでもいいじゃん、という指向だってことなんだが。伝わらないことも多い。

 大阪にお店とかある? 見たことないんだけど。といったら彼女は当たり前のように「私は沖縄で食べるから」と役に立たない情報をくれた。そんなわけで私はこーれぐーすが本来どういう味の料理にふりかけるものなのかよくわからないまま、いろいろなものにかけて食べてみたのだけれど、なにせベースが泡盛である。冷静に考えてみると、日本酒を料理に使うことはあっても、焼酎は使わない。ブランデーは使うがウォッカは使わない。ビール煮ってのはあるけれど(私も飲んでいた途中でのっぴきならない事態が起きたとき限定で作ることがある。のっぴきならない事態でもなければ私がビールを飲み残すことなどありえないからだが、意外にのっぴきならない事態というのは年に何回かはあるものだ)、テキーラ煮込みなんてのはきいたことがない。

 こーれぐーす、あんまりなににも合わない。
 遊びに来た友人にも食べさせてみるが「思ったより辛くて料理が台無し」になるということしか発見できない。泡盛の味がきっちり残っているので、かけるとがらりと料理の味が変わってしまうのである。しかもタバスコのように辛いのに粘性がなくさらさらの泡盛そのままのため、ちょっとだけかけるということがすごくむずかしい。どぱっとかかってしまうのだった。確かに料理が台無しである。

 そんなわけで、こーれぐーすは冷蔵庫に保管されだれにも使われることなく眠っていたのだが。

 今月末締めのフェラチオ話をかきあげて、三十一日に郵便局に出かけがてら映画を観にいった。このサイトの『表紙』に目を通すくせのある方ならご存じの通り、私は『西部警察』でショットガンを両手でかまえてアメリカンバイクを疾走させる館ひろしが頭にこびりついていたために黒いアメリカンバイクを買ってしまったのではないかと疑っていて、その館ひろしが、黒い革つなぎから黒いスーツとコートに衣装をかえて、七年ぶりに黒いアメリカンバイクを疾走させながらショットガンを両手で撃つということで、観にいきました『まだまだ危ない刑事』

 観たのは大阪は道頓堀の劇場だったのだけれど、なぜかその日は同じ制服を着た高校生がいっぱいいて、みんなたこ焼きを食べていた。修学旅行? 社会見学だろうか。ひっかけ橋をどこかの地方から来たミニスカ制服の女子高生が大挙して渡っていて、さすがに気合いの入ったミニでも制服姿の相手に声をかける猛者もなく、それにしても道頓堀に高校生を連れてきてなにを学ばせようというのか、その学校の意図をはかることのできない私だった。場外馬券場に群がるくさいおっさんと真昼から香水の匂いのきつすぎるこれから出勤のおねえさまがたと、冗談のように虎と龍のスカジャンとか、紫色のミナミの帝王スーツを着たおにーさまがたとかが、渾然一体となって醸し出す生活臭を嗅がせる学習だろうか。ためになりそうもない。しかし、これだけラーメン屋が並んでいるのに、どの店もつぶれないというのは、確かに社会科見学的には意味があるかもしれない。

 劇場のなかにまで女子高生がいる。お前ら、その若さでタカとユージのなにを知っているというのだ。『西部警察』を観ていないと館ひろしがアメリカンバイクにまたがることの意味をありがたがれないだろうが『ゴリラ・警視庁捜査第8班』(石原裕次郎亡きあと、初めての石原プロのテレビシリーズ。渡と館の気合いの入り方が尋常ではなく、ベレー帽でショットガンを撃つ館ひろしはまさに輝いていた。傑作シリーズ)を観ていないと館ひろしの重圧を理解できねえだろうが……ていうかケータイを切れよ。それ以前になんの旅行か知らないが大阪の想い出が『アブデカ』で本当にいいのか? にぎやかな劇場だった。観始めてすぐ気づいたが、意外と『アブデカ』のこってりした笑いのノリというものは、大阪の笑いに通じるところがある。道頓堀の劇場で、きっちり笑いをとっていたので称賛に値することだろう、それは。

 作品自体は、

「どこから持ってきたんだよ、そのバイク」

 という柴田恭兵のつっこみもあらわすとおり、全編にわたって館ひろしと柴田恭兵を「魅せる」に特化したものだった(ちなみに『あぶない刑事』テレビシリーズはスズキがスポンサーだったので通行人から拝借してタカが乗るバイクも全部スズキで、その後スズキとのしがらみがなくなったあとはタカがカワサキ車に乗ったりもしていた(ちなみに私もいまカワサキに乗っている)。今回は権利関係の問題がなにもなくクリアだったのか、ハーレー好きの館ひろしらしくタカのバイクはハーレーFXSTソフテールスタンダードという1450CCのバイクで03年の100周年モデル。200万円くらいのバイク。そんなものが廃工場跡に走る状態で鍵付きのまま放置してあったという設定が許されるのは『アブデカ』だけだろう。ご都合主義の極地である)。集中して観ている女子高生と、そうでないコがはっきりわかる映画だった。退屈そうなコは「なにこのおっさんのアップが多い映画」と思っているに違いなく、見入っているコは顔にシワの刻まれはじめた日本人のおっさんのなかにもアップで観るに値する人たちがいる、という事実に気づいたラッキーな奴だ。

 爆薬の量は少なめ。『フォーエヴァー』を期待すると肩すかしを食う。テレビの二時間ドラマくらいの予算でできた映画だ。その予算でこの動員数は、キャラクタービジネスの成功例と言っていいだろう。タカとユージと浅野温子(健在。このひともアップに耐えられるからすごい)のキャラで、笑いもとるしアクションも魅せる。いわば『ミナミの帝王』のシリーズに深い感動などいらないという図式に近い。竹内力を観に人は集まるのだから、だったら無駄な金をかけなければ利益は上がる。利益が上がる作品は量産される。『アブデカ』について訊かれたインタビューで館も柴田も「次のオファーがあればまたやる」と断言していたので、金かけなくていいからこれくらいの可もなく不可もないシリーズとして量産して欲しい。

abudeka

 ところで新人君の事故で流れてしまった『西部警察』平成版テレビシリーズは、このまま立ち消えてしまうのだろうか。館ひろしのアクション・スターとしての力がまだまだみなぎっていることをこの『アブデカ』が証明している。ネタでなく本当に五十肩になって目線の高さで拳銃がかまえられなくなる前に、シリアスなバイオレンス館ひろしのかっこいいところを存分に記録しておいて欲しいものだと、強く思った。アクションのできるシワだらけの俳優って外国ではいっぱいいるのに日本は少ない。石原軍団は日本アクション映画界の要だ、気張って欲しい。それにしても『ロッキー』の新作を撮るらしいスタローンをこのあいだテレビで観たのだが、ぜんぜん衰えない筋肉とシワのなさはどうだ? 筋肉増強剤とコラーゲン注射だけでは越えられない壁を彼は越えている気がする……筋肉移植術とか。やっててもなんの不思議もないよ、近頃ヒットに恵まれない彼なら『ロッキー』新作に命だって投げ出すだろう。素敵だ。

 話は戻ってこーれぐーす。
 その日私は、皮から餃子を作る餃子好きのひとりとしてかねてから覗きたかった『浪花餃子スタジアム』に行くつもりだったのだが、思いのほか締め切り当日のあれやこれやが長引き、昼食に餃子を食いに梅田まで行くには遅すぎる時間に映画が終わってしまったので、急遽予定変更。同じナムコ(バンダイナムコって呼ばないとダメか。しかしバンダイって社名はセガバンダイのときにも思ったが、くっつけると合併相手の社名を喰っちまうアクの強さがありますな)のフードテーマパーク、道頓堀から目と鼻の先、なんばパークスの『浪花麺だらけ2』へと向かったのだった。10月にリニューアルしたばかりの施設だ(ちなみに公式サイトの「ご当地麺占い」で私は『ちゃんぽん』だった。「いわゆるふところの深さを感じさせる人。いい意味でアバウトなスタンスに、安心感を覚える人も多いことでしょう。あなたを麺にたとえるなら、山海の恵みたっぷり・太麺&まろやかスープのちゃんぽん。この麺の持つ豊かなムードは、あなたのものでもあるのです。」ということだが、私は麺料理の中でちゃんぽんの位置を非常に低く見ている。店で自分から頼んだことは人生の中で一度もない。ごった煮よりもシンプルなスタイルが好きなのだ。ままならぬ)。

 ラーメン喰う気で行ったわけで。たぶん餃子とビールもあるだろうとか思って。しかし行ってみたら夕刻遅くという中途半端な時間もあるのだろうが、テーマパークに人の影なし。遅刻気味らしいバイトのコが走っていったら「うどんキュイジーヌなんば」とかいう店のおっちゃんが「いいところに来た。めっちゃひまやねん」とかオオサカンギャグをとばしている。客の前で言うな。いや見ればわかるけど。なにせずらりと並んだいろんな麺料理店の各店長と従業員が私を注視している……かと思ったら、あんまりそうでもない。なぜかと思えば、目の前ののぼり旗が答えをくれた。

「沖縄そばの名店『首里そば』」
「一ヶ月限定、10月31日まで!」

soba

 ──まさにその日が最終日。あと数時間で大阪を撤退する沖縄で一番人気らしい沖縄そばの店。ああ、そりゃあこれ喰わなきゃいかんわな。沖縄そばの店には沖縄そばしかなくて餃子もビールもなかったのだが、テーブルの上にはそれがあった。ブルーのガラス瓶に入った切り取った数人の赤ん坊のおちんちんのホルマリン漬けみたいな、その調味料、こーれぐーすが。

 かくして図らずも私は我が家の冷蔵庫に眠らせたままだった、こーれぐーすの本来の使い方を知ったのだった。最初は入れずに喰う。そして入れてみる。入れてみる入れてみる。ほとんど瓶に残っていたぜんぶくらいを入れてみる。スープを飲んでみる。

「おお」

 なるほど、こういうことなのだ。コクとパンチが増した。私の横では、我が家のこーれぐーすの誤った各種使い方によってトラウマをうえつけられた妻が、無難に七味などかけて喰っている。いや、これに限ってはこーれぐーすをかけても台無しにはならない、ていうかそんな普通の七味で喰うのもったいない。と思ったが、まあ人それぞれ人生いろいろである。

 で、喰いながら我が家でのこーれぐーすの使い方を考えた。沖縄そばというから、私はてっきり蕎麦だと思っていたのだけれど、それはどう味わってみても強力粉ベースの麺だった。たぶん、かん水も練り込んである。スープはかつおだが、肉の味がするのはチャーシューがトッピングされているからだけではないようだ。ダシ自体に豚の味がする。味つけは普通の醤油だよなあ、たぶん。特筆すべきは、ショウガがきいている点。結果としてショウガ入りのちゃんこ鍋スープという表現が近い。私はちゃんこ鍋に、というか水炊きにもショウガのかけらを入れて煮る派なので、なんら違和感はない。きっと豚の臭みを消すための措置だろう。その昔、沖縄そばってもっと野性味あふれた料理だったのだろうことが推察できる。豚とかイノシシとか(沖縄にいるのかどうかは知らないが)、鉄鍋でぐつぐつ煮て、臭み消しにショウガと泡盛を注いだのだ。そう、沖縄そばのスープにはもともとから泡盛が入っている(たぶん。焼酎かなにかかも知れないが、日本酒ではない酒類が入っていることは確かだ)。味つけは醤油のみ。現代になってみりんとか足したりしたんだろう。

 翌日。

 考えた。沖縄そばの麺はうどんよりも細くそうめんよりも太い。ああ、そういえばお中元にもらった半田そうめんとかいうのが「太さが売り」とか書いてあってちょうどこれくらいの太さだったかも。いっぱい余ってるし。スープは、豚を煮るなんてのはちょっと昼食に麺を喰うなんていうレベルの話ではなくなってしまうので却下。市販の醤油ベース濃縮めんつゆを薄めにのばし、醤油とみりんを足して、鶏ガラスープの素を加えてみる。あとショウガの千切りを散らしてひと煮立ち。

 偽ラーメンスープ仕立てのにゅうめんみたいな料理を作る。喰ってみれば、そこそこ、まずくはない。ショウガを加えためんつゆというのがあまり経験ないが、まさに沖縄そばっぽい。というわけで、こーれぐーす投入。

「おお」

 これだ。大正解である。
 残っていたこーれぐーすを使い切った。赤ん坊のペニスみたいにぶよぶよして色の抜けた赤唐辛子が数本、瓶に残った。原材料を見るとわかるが、こーれぐーすには酢も入っている。ていうかこれ、泡盛と酢と鷹の爪だけでできてるんじゃん。この小瓶で数百円の商品にするって高くない? だいたい、その原材料はすべてうちにある。ということで、こーれぐーすの自作をはじめた私でした。なんかこれ、我が家の定番調味料になる可能性を秘めていると直感した……が、疑問は残る。本当にこーれぐーすは泡盛に酢を足して唐辛子入れただけのものなんだろうか。なにか特別な製法がある気がしてならない。だってこれだけで完成なら、商品としてなんで売っている必要がある? 泡盛買った方がずっと安い。それとも何年も漬け込んだりするんだろうか。

 沖縄好きの彼女に、今度行ったら現地の人に製法を訊いておいてくれと頼んでおこう……自分で沖縄行けばいいじゃない、と返ってくるに決まっているが。これからの鍋季節、こーれぐーすの活用のために、私は試行錯誤することになりそうだ。単純なものほど、奥深いのである。

TRACKBACK http://yoshinogi.blog42.fc2.com/tb.php/11-96fb75c5

最近、頭の中でごっちゃになること。  俺は西なのか、酉なのか  2006/02/03 02:13
それは… ときどき、 矢沢あい と 矢沢心 が、どっちがどっちか判らなくなること