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『オーレイ・クエンチ・ボディローションにみる武士道』の話。

 2003年、世界柔道選手権。
 一回戦で対戦したフランスのセドリク・クラベリ、二回戦のモンゴルのダムディンスレン・ニャムフーから、「胴衣が滑る」と抗議を受け、ともに中断。三回戦、トルコのイラクリ・ウズナドゼからは試合後にIJF(国際柔道連盟)へ正式に抗議があった。同一の大会で、闘った三人の選手から異口同音にこのような抗議があったことは柔道界の過去現在を問わず例がない──ちなみに、同選手権への出場者を選抜する全日本選抜柔道体重別選手権大会(81kg)においても、対戦した中村兼三が開始直後に「滑ります」と抗議をし、試合が中断している。

 結果として、胴衣は試合後審判団に回収され、調査することになったが、めぼしい物質は出ず、実際の手触りで確認したところによっても、人によって「滑る」か否かという意見が別れることとなった。調査の過程では、卓上に置いた胴衣に手で触れたのだが、通常の洗濯洗剤、柔軟剤が充分すすげていなかったという程度でも、試合中の動きと握力では「滑る」ことがあるため、検証は不十分なまま、なんのおとがめもないということで決着している。

 世界柔道選手権は、柔道界ではオリンピックに次ぐ大会と位置づけられており、日本国内においては、その結果がオリンピックへの出場権へと直結する。

 同大会において、彼は準決勝で「まさかの敗戦」。
 アテネ・オリンピックへの出場はなくなり、翌年、プロ格闘家に転向、同年大晦日。
 『Dynamite!!』──フランソワ“ザ・ホワイトバッファロー”ボタに勝利。
 1R1分54秒。
 華々しいプロデビュー戦となった。

 ちなみに彼の胴衣は母親が手洗いしていて、柔軟剤は花王ハミングを使っているという。彼は自ら言うとおり、多汗症の乾燥肌なので、汗をすってふんわりやわらか気持ちいい──ハミングを、もっとどばっと入れてくれと母親に頼んだ結果、すすぎ残りが生じて歴史上類を見ない疑惑の柔道スキャンダルとなってしまったのかもしれない。
 まあいいや。
 韓国から日本に帰化したという両国にとってラブリーな柔道家が、惜しくもオリンピックには出られなかったが、プロ格闘家ですって、しかもすぐ目の前の大晦日にデビュー戦ですって。しかもその相手はぼくらの大好き190センチ110キロの白い雄牛人間ボタですよ──プロレスラーが格闘技の大会に出るのを「盛り上がってええやん」と感じる、ガチガチの格闘好きではない格闘技好きの身としては「柔道の技しかしらんやろうけど、でもボタもボクサーでパンチしかないしな」──おもしろいよ大歓迎だよ、オリンピック行けなくて良かったねとさえ口走ってしまいそうだよ楽しみだなあ大晦日。みのもんたとか、清原とか、やたら濃い顔の人がフリークについているというのも、すごく良いじゃんねえ。

 雄牛を倒してからの戦歴はモノスゴイ。
 2005年3月 対ジェロム・レ・バンナとの対戦でこそヒザ蹴りでKOされたものの……

 2005年7月 カール"トゥームストーン"トゥーミィ
 2005年10月 マイケル・ラーマ
 2005年11月 奥田正勝
 2006年3月 石澤常光
 2006年5月 永田克彦
 2006年8月 金泰泳
 2006年10月 ケスタティス・スミルノヴァス
 2006年10月 メルヴィン・マヌーフ

 すべて勝ち。HERO'Sライトヘビー級の王座に君臨。
 満を持して、日本格闘界ライトヘビー級のカリスマであり、この国の格闘技をメジャーなエンタメに引き上げた立役者といえる、あの男と、大晦日に対戦が決まった。プロレスラー最強をうたう彼。倒すべきはパンチをおぼえた最強の柔道家。その日の早い段階で、石澤常光(孤高の覆面プロレスラー、ケンドー・カ・シンの中身)がハミング好き柔道家に今年負けた人決定戦を空手家、金泰泳と繰り広げ、あっさりとKO王者に君臨してプロレスラーの弱さを見せつけていたため、メインで桜庭さんのカッコイイトコ見てみたいとワクワクしていたプロレス派閥の軟弱格闘技好きは多かった。

 2006年12月31日
 『K-1 PREMIUM 2006 Dynamite!!』
 桜庭和志

 どっちかというとPRIDEが本命で、Dynamite!!は、おせちつつきながら(年明け前に食べていた)、点いているので見ているという感じだったのだけれど……その試合が終わって……年に一回、こういう場で点いているからしか格闘技を見ないような彼女が、ぼそりと言った。

「桜庭さん、なんかかっこわるい」

 男どもは、睨みつけたかといえば……頷いてしまっている自分に気がついていた。「滑るよ!」を連呼し、両手でタイムを要求している。あきらかに桜庭はなにかを訴えようとして、闘う気をなくしていた。ぼんやりと酒を飲みながら見ていたので、事情がどうであれ、目に飛び込んできたのは「ボコられて顔を腫らし腰を抜かしながらなにか負けた言い訳を連呼しているサク」──見たくない画だった。なんかすっきりしないね、とみんなで頷きつつ、ダウンタウンの罰ゲームにチャンネルを変えたら、カウントダウンもなくて、またすっきりしないで年越してしまったりして。

 元旦に、録っていたビデオを見直した。

「なにこれ」

 その、なにこれ、の調査結果が、半月も経とうかといういま、公式発表されました。
 胴衣を脱いだ彼が、また「滑る」と対戦相手に言われた理由。
 まさか、カラダを洗ったニュービーズやハミングがしっかりすすげていなかったわけではないだろう(柔道着を洗うのにアタック使っちゃダメ。生なりの風合いを消さぬため、蛍光剤無配合のニュービーズか液体アタックを使いましょう)。

Olay Quench

 オーレイ・クエンチ・ボディローション・エキストラ・ドライスキン──「多汗症」であるがゆえに水分が飛んでしまって「超乾燥肌用」ボディクリーム。肌に問題が多いようである。油性クリーム、ワセリン入り。つまるところ、ボクサーが相手のパンチを滑らせるために顔にたっぷり塗っているてらてら光るアレの成分が入ったボディ・クリームなわけだが。ボクシングと違って、Dynamite!!では「カラダになにか塗る」こと自体が反則であるため、桜庭戦はノーコンテストになった。

 この件について、弁明する彼の言葉を信じる格闘技好きはいないだろう。
 彼の胴衣はやはり滑ったのだ。
 彼の肌も。

 そして、彼は柔軟剤も、今回のボディーオイルも「たっぷり使っている」と明言して、今回は控え室のカメラの前で、二人がかりで自分のカラダにクリームを塗らせていた。反則だという認識がなかった──だから謝る、申し訳ない。

 きっと、追求されなければ、そのままだったろう。
 柔道ファンよりも、ネット上の格闘技ファンはうるさかったから……そして桜庭ファンは怒っていたから。
 調査せざるを得なくなって調査した感が否めない。

 で、そのことについて考えた。
 もう時間がない桜庭の一年を台無しにしたことは、確かにヒドい。
 うちで見ていた彼女のように、たまたま見ていたヒトに「格闘技ってなんかなぁ」と思わせた罪も重い。
 しかし、世界柔道のとき、私は彼が柔道着になにかやっているなら、それは実に「上手くやったな」と感じたことを思い出した──こういうやつはプロレスとかプロエンタメ格闘家なんかのほうが映えるんじゃないの、と思ったからこそ、プロ転向に拍手したのだった。

 正々堂々を武士道という向きもある。
 だが、敵を倒し生き延びること、をこそ武士道とも呼べるだろう。
 いや、私は、桜庭大好きなので、ものすごく彼に腹が立つし、エンタメとしても結果としてすっきりしていないんだから、本人もファイトマネー没収だし、だれも得していないこんなバカなことは認めたくはない。グローブ問題も、ミット打ちでロゴがはがれました、って、映像が残っていましたって、あーたFEGのサイト動画がウリだろうよ、そんな彼の潔白証明する映像なんで流さないのよ、と詰め寄りたいところだけれど、それではこっちが矢追純一を追求する大槻教授のようになってしまうので、触れたくもない。
yaoi
 でも、心を入れ替えましたもう反則はしません。
 と彼がルールブックをがっちり読んできて。

「皮膚の下に超合金を移植するのは禁止されていないですよね」とか、

「乳首からぬるっとした油っぽいものがにじみ出るように整形したって反則ではないですね」とか。

 正々堂々やってきたら。
 大笑いして「人生をかけた武士道の体現者だ」と賛美してしまいそうな気がする。
 ていうか、そういう路線でプロレスやったら儲かるのに。
 ハッスルのマットで口からワセリン吐く柔道家やったらウケるって。ライター持った川田に追いかけ回されて「引火する、引火するっ」とかやって欲しいな。そうしたら応援するんだけど。いや冗談抜きで。ちょっともう彼の格闘技の試合は楽しみじゃなくなっちゃったよ──みんなそうだろうから、だとしたら、その独自の武士道を、突き詰めてエンタメ化するしかないと思う。
HUSTLE
 しかしそれにつけても桜庭はもう辞めたいんじゃないのFEG──ひどいよ毎回。PRIDE出て行ってしまったことは、確かにサクにとっても決断だったのだろうけれども。サクはプロレスラーであるからこそ、リングの上で行われることは、ひとつの作品として美しく仕上がらないと、サク自身が「なんでそこにいるの?」と見えてしまう。極論、反則があっても、その場できっちりなんらかの対応があって、悔しがるサクが見られたなら、それもひとつの完成度だった。
 もう彼が勝ったんだから、すっきりしなくてもとりあえず番組盛り上げて終わらせないと──そういう意識が先に出た時点で、逆説的にエンターテイナーとしては失敗だと思うよ谷川さん。ニュース報じる側から来た人だから、スキャンダラスに盛り上げる手法が好きなのかも知れないけれど。ニュースはあくまで、観客を増やすためであって、そうして集めた観客に、またショッキングなだけのショーを見せるのは違う。

 レディース、アンド、ジェントルメンっ!
 お集まり頂いたみなさま、ここに来られたきっかけはスキャンダルかもしれませんが、きっかけはきかっけに過ぎません──今宵、繰り広げられるのは、語り継がれるための名勝負。そして、とめどない感動。みなさまご満足頂けましたなら拍手喝采ねがいます──

 そういう夢の夜を提供するのが、主宰の役目でしょう。
 客に現実を忘れさせるための舞台。
 そこに現実の臭みが紛れ込もうとしたとき、きっちり処理できるシステム作っておくのが責任。

「試合の途中ですが、彼のカラダがサクの言うとおりぬるぬるするか検証します!!」

 そんな展開のほうが、よほど気持ちの良い大晦日だった。
 リングの上には、客をよろこばせるためのシナリオしかあっちゃいけない。
 プロレスLOVEな私としては、そう思います。
 大晦日に、地上波テレビで格闘技やってくれた意義は大きいと思うから。
 がんばってください、清く正しく美しく。
 あとくされなく、おもしろく。

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 プロレスのリングのうえで行われることは、
 すべてプロレスである。


 ジャイアント馬場

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 二ヶ月前にはじめたばかりのブログで彼が謝っている。
 『柔道★最高.com』
 その潔さにヒールの才能を見る──(笑)

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ラーマ  小春のブログ  2007/01/25 03:19
ラーマ、兄弟ラクシュマナ、そして献身的なハヌマーン。ラーマとラクシュマナは常に弓矢を持ち、戦闘準備を整えた姿で描かれている。ラーマ(Rāma)は、インド