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 日の本の国のプロレスリング観測者として、そのニュースに触れないで通りすぎるわけにはいかない。後々、あそこが結節点だったね世界が変わったよね、というようなことを書くことになったとき、振り返る地点として検索できるようにしておかねば。

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スターダムがブシロードグループ「キックスロード」と事業譲渡契約記者会見 – 株式会社スターダム

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 プロレスを観ないかたでも、ご存じであろう。

 ブシロード。

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 『ミルキィホームズ ライブ in 武道館』のジャケットはアニメキャラだ。だがしかし、それを買ったひとが観る、武道館公演とはつまり、なかのひとが歌う様子。だったら声優四人の写真をジャケットにしないとクレームになる、という発想を根底から覆した商法で、コレはコレでアリにした。キャラクターを売るブシロードという企業の、強引なところもある商売の間口の広げかたは、とどまるところを知らなかった。

 思えば、プロレスとはそういうモノである。

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 見て見ぬ振り、云わぬが花の約束ごと。それを解さぬは──愚か者。そう云うことでございますよ。ないものはない。ないと識って尚、あるように振る舞う──この国にはそうした文化があったのです。それは、この国の良きところ、残すべき在り方だと私は思いまする。

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京極夏彦『書楼弔堂 破暁』

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 西洋相撲と銘打って興行をはじめた力道山が碧眼巨躯のガイジンをカラテチョップで打ち倒す。そのさま観たさにガイジンに負けた国の人々はテレビを造りまくって科学の国として復興したけれど、その、日本の救世主とも呼べる民衆のヒーローたるプロレスラー力道山は、現北朝鮮生まれの本名キム・シルラク。

 今年のラグビーワールドカップでの多国籍風味日本代表の躍進に、テレビのコメンテーターは「日本の未来の姿を見せてくれましたね」と笑顔でコメントしていたが、言っちゃあなんだが、小さな小さな日本という島国でガラパゴス的に進化した西洋相撲の在りかたは、昔から世界のお手本だった。それはひとえに、日本人という観客の良質さにある。

 UFCという世界最大の歴史ある格闘技団体が、ファイトナイトと名付けている、地域密着型の興行がある。世界中を回って、その土地にフォーカスしたカードを組むというサービス精神満載な大会を、私もテレビを通して観ている。そして気づくことがある。

 土地の英雄たる格闘家と、ガイジン。そのふたりが闘うのに、入場シーンでガイジンに向かってブーイングしないのは日本大会だけだ。逆に言えば、日本以外の土地で、身内でない者は、人間性関係なく初見で敵視されるのみならず、それを真っ向から表明される。

 勝負のあとでも、そう。メインカードで、地元の英雄がガイジンに敗れたりすると、静まりかえる。そこでも、日本大会だけが違う。敵が勝とうが、試合が良ければ拍手が起きるのである。もしかするとその反応は、ファイトナイトと名付けたくらいなのだから、煽って熱狂させるつもりのUFC陣営が狙ったところではないのかもしれない。だがしかし、その特異性は、世界にテレビ中継されていることが誇らしくなる、この国の間違いなく良いところだ。

 あいまって。この国は妖怪の国でもある。妖怪がいると信じている者はいないが、現代においても、ガタリと音がすれば、猫かと疑う前に、怪異を視る。知らぬ間の傷はカマイタチのせいで、夜の営みを拒否られるのは枕返しのせいである。

 わけのわからないできごとを、物の怪がやったとか、なにかに憑かれたから今日のあいつはああなのねとか、納得できる国民性。西洋の、ベッドの下から出てくる怖いだけのブギーマンとは違って、ここでのモンスターは有益だ。ものごとに説得力が出る。だから、あえて信じる。信じるなどと意識さえせず、川を見れば河童も視える。河童がいるから浅くても気をつけなさいと子に言う。こんなところで溺れるわけがないよと笑う子には、いかに河童が怖ろしいか語らなくてはならない。子供には、肛門に手首までツッコまれて尻子玉を抜かれるという話がよく通じるだろう。アナルの奥の本人もあずかり知らぬ玉が好物なので引っこ抜きに来る水棲生物など、大人でも怖い。説得力である。

 日本人は、ファイトナイトに熱狂していないから、敵の入場にブーイングしないのではない。する必要がないのだ。煽られたらノる。敵でないと知っていても、対ガイジンだよ盛り上がれという興行主の意向は理解していて、それにちゃんと酔ってもいる。日本大会は、毎回、超満員だ。ただ他の国と違うのは、信じていないことを信じているという矛盾を、矛盾ではないとまた信じたほうが有益であるという生きかたが、身に染みている。だから、ブーイングしないでも心は熱くなれるし、呼吸困難になるほど国の英雄を応援した直後でも、勝ったガイジンを讃えられる。河童が本当にはいないことを先刻承知の地球でも希有な人々。

 歌って踊るのが、笑うと唇の端に小皺の出る声優でも、脳内ではアニメキャラにできる。というか、そうでないことを解しながらそうであると思えてしまうのだから、無敵だ。有益に過ぎる。世界からロリータコンプレックスの大国と蔑視されるこの国でもあるが、その理由はおもにHENTAIと英語の辞書にも掲載されるようになった、日本の誇るべき文化に根ざす。大量に作られるコスプレポルノやアニメポルノ。コスプレなのだから本物ではない。アニメなのだから絵である。そんなモノでヌケるのかよ、あの国イッちまってんな、と世界に笑われるくらいに大量生産されているわけだが、実のところ、ほかの国では真似のできない、そのイッちまっているポルノ群が、世界で消費されているからこそ、広まったHENTAI。

 昭和という戦後の時代、日本人レスラーも、世界のプロレスに参戦した。自爆カミカゼ、ゲイシャ忍者にカブキ。軍服サーベルコスプレの日本人レスラーを、シュッとした金髪がやっつける。やられ役コスプレが似合いすぎて、いつしかコミカルに描かれていくようになる日本人。でも奇襲は忘れない。土下座して、油断させて、口から毒の霧を吐く。

 いっぽうそのころ、日本国内で独自進化を遂げていった昭和プロレスは、逃げ場のない巌流島で一騎打ちをしたり、ボクシングの世界チャンピオンにガチで挑むといった方向性で客を沸かせたあげく、ハイブリッドレスリングなることを標榜する団体まで現れた。自動車でHVといえば、電気とガソリンの両方の良いとこ取りをしたものだけれど。レスリングでは……

 プロレスと格闘技。

 くだんの、ハイブリッドレスリングを謳って旗揚げされた団体は、現在では完全なる格闘技団体になった。しかしその流れのなかで、そういう興行も隆盛を極めた。

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 格闘技の選手がプロレスをして、プロレスラーも格闘技をして、グラビアアイドルも狂言師の母息もリングに上がる。

 見て見ぬ振りをするには、イキすぎた感は確かにあった。しかし間違いなく、妖怪を粋と視るこの国で、それは一瞬にせよハマったし、またひとつのプロレス独自進化ぶりの果てを見せた。

 そこで、である。
 話は戻る。

 巌流島でありモハメド・アリである、日本のストロングスタイルと呼ばれるプロレス団体、新日本プロレスの祖、アントニオ猪木が、UFCのテレビゲームで名高いゲーム屋に株を売り、それを今度はブシロードが買った。

 ブシロードは、集客に陰りの見えていた新日本プロレスを立て直し、世界進出をはかる。

 同時進行で『KNOCK OUT(ノックアウト)』旗揚げ。

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・ new blog posted. < 〔妹麗〕mairei - virgin sister beauty. > : http://yoshinogi.blog42.fc2.com/blog-entry-683.html

・ キックのイベント「KNOCK OUT vol.1」での青山ひかる、を詠んだ。 単純に妹キャラというのでもない、得体の知れない周囲への無関心オーラが孤高さと紙一重で、デコピンすべきか狂おしく抱き守るべきか悩ましいところが妹麗でした。 http://www.knockout.co.jp

twitter / Yoshinogi

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 ラウンドガールに目が行ってはいるけれど、旗揚げ戦から私も観た。いや、その前身である、キックボクシングの選手が主宰していた興行のときから観ていたから、そこに新日本プロレスのブシロードが噛んでくると聞いて、期待と不安あいなかばだった。ショーアップしてくるのだろうな、儲かるから噛んでくるんだよな、という観点で観たために、どうしてもショーアップのかなめ、ラウンドガールを凝視してしまったきらいはある。

 そこまで平成の話。

 そして令和。
 冒頭のニュース。

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 グラビアアイドルから女子プロレスラーに転向した選手の活躍によって集客した女子プロレス団体が、ブシロードの傘下に入った。

 単純な話、この国で、ガチの格闘技と、男子プロレス、女子プロレスの、それぞれに規模のある団体をワントップが動かせる状態になったのは、ハッスル以来のこと。集客数をV字回復させた新日本プロレスのファンは特に、今後の展開が、時代のあだ花となったそれに重なって見えるニュースである。

 現に『KNOCK OUT』のリング上で某選手がさかんに新日本プロレスへの参戦を希望すると発言しはじめた。唐突な感は否めず、年明けの東京ドーム大会という具体的な日時まで出したことから、実現するのではないかと観る格闘技観測者は多い。

 そのなかで女子プロレスという駒を得たブシロード。

 逆説的な話になるが、世界でも女子プロレス団体というものがかくも乱立して、しかも成り立っているというのは、日本だけである。昭和において、リング上で歌謡曲を歌う女子レスラーに女性ファンが群がるという、なにかが視えているにしても特異すぎるだろうという過渡期を経て、令和では女子レスラーが男性向けイメージビデオを出すというようなことになっている。

 会見のなかで、ブシロード取締役は、国内で女子レスラーの新日本プロレス参戦は当面ないと明言しながら、海外の新日本プロレス興行で「なぜ女子の試合が一試合も入っていないのか」と言われたことが起点だったとも語っている。

 クールジャパンの代表格たる企業として世界を見ると、独自すぎる日本のプロレス、格闘技の在りかたがリスクと映ったのかもしれない。世界最大のプロレス団体はアメリカにあるが、その団体は二十世紀からディーヴァ(女神)と呼んできた女子レスラーを、男子と同様に呼ぶことにした。世界最大の格闘技団体では、昨今、女子選手の試合がメインに組まれることが多い。

 世界にクールだと見られてきた、この国の独特であるがゆえに良いところは多い。しかし、インターネットの世紀。プロレス団体も、格闘技団体も、ぴっちり男子と女子を分離させているこの国のふつうが、世界からはあまり好ましくない特異さとして見られはじめている。

 そういうことを感じさせる、ブシロード側の言葉だった。日本のなかでは当面はない。けれどいつでも変革はできるようにしておく。国外の興行ではすぐにでも女子の試合も入れるということなので、この先は完全に、日本に棲む民の意識がどちらに転ぶか。

 私個人は、なんでもありな嗜好だから、どうなっても愉しむ自信はある。ただ思う。この国の良きところ、残すべき在りかたは、ブーイングがない会場の寛容な雰囲気。望遠レンズを装備したプ女子やプ男子は、ヒト対ヒトを観ていながらも、見えないものを視るHENTAI。リング上の百鬼夜行は微笑んで観ても、客席の妖怪と妖怪は傷つけあったりするかもしれない。混ぜるな危険。この国では特に危険。見えないものを視る人々の国で、棲みわけてきたものが垣根を取り払われて、たとえば新日本プロレスの地上波テレビ番組で、観るつもりはなかったひとに見えなくてもいいものを視せてしまうことだって在りうる。というところを世界を見て動くブシロードさんには、よろしく気をつけていただきながら回していってもらいたいものだなあ、と考えるニュースでした。




 ひとりになった祖母が野菜を食べなくなって、買うと余るからと言うので冷凍食品だって野菜だと買ってきて冷凍庫に詰めたことを想い出すことがあるが。私は安いから使う。あれこれ買いたいものがネット上では見つけられても、通販で買うと冷凍ブツは送料がベラボウにかかってしまう。安くないなら買わない。

 たとえば、ニンニクの芽。
 こんな記事の写真に、ちらほら写り込んでいる。

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『ピザ六景』の話。

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 なにかというと使う。接客業なので、特に翌朝早い日などは、ニンニクを控える。代用としてのニンニクの芽。味はまったく違うものだけれど、栄養成分は当たり前だが同じ植物の部分なので似通っている。栄養というよりは、それでも好きなニンニクを食べるんだ私は翌日の仕事になんて支配されていないっ、という気分的な開放の意味あいも実は強い。

 数年前まで、業務スーパーブランドで、500gの冷凍カットニンニクの芽というのが売っていて、冷凍庫に欠かしたことがなかったのが、あるとき発売中止に。中国産で、他社のニンニクの芽から危うい水準のブツが検出されたという話もあったから、先手を打って店頭からなくしてしまったのかも。

 その後、ネット検索してみても、そういう冷凍ニンニクの芽のパックを製造しているメーカーさんがちらほらいらっしゃるのは確認できるし、冒頭で書いたように通販ならば見つけられるものの、実店舗での販売に出逢えず、やむなく生のニンニクの芽を手作業でカットして冷凍してストックするという日常に移行。

 しかしこれ、おかしな話で。近所のスーパーに行くと、バラ牛肉とニンニクの芽をタレで和えた、恐れ戦慄くほど安い味付け焼肉なんていうものが売っている。タレで和えないと売ることができない端切れの肉であったとしても、その安さは、どうやらパック表記のグラム数の三分の一ほどを占めているニンニクの芽が牛耳っているとしか思えず、だとすると同じスーパーの野菜売り場で売っている生のニンニクの芽を流用していては計算が合わない。

 都会に暮らしているので、近所に牛丼屋が何軒もある。某有名牛丼屋は、毎年夏になると、ニンニクの芽がてんこ盛りされた牛丼を売り出して、飛ぶように売れている。あんなのが生のニンニクの芽を仕入れているわけもない。

 かように、近所を散歩しただけで、安いスタミナ食の定番をうたってそこらじゅうでニンニクの芽と食肉を炒めたり煮たりしたものを売っていて、それらは価格的にも物量的にも、どう考えても冷凍カットニンニクの芽で、ということは日本中に膨大な量の冷凍ニンニクの芽が流通していることは確定的。

 そのニンニクの芽を、500gとか、1000gとか、まとまった量で定期的に買おうと申し出ている私が、数年にわたって、生のニンニクの芽を包丁でカットしているとはこれいかに。

 いかに、などと言っていてもどうなるわけでもないので、知らない店を見かけると、とりあえず冷凍野菜売場はチェックする。

 猛烈な暑さも、いよいよ去ったと確信できるような秋の休日。もうずいぶんとオートバイを走らせておらぬことよ、と気づいたときなど、グーグルマップを開いて、まだ行ったことのないスーパーマーケットの類を目的地に設定する。大阪在住で、往復一時間くらいまでならばニンニクの芽その他の冷凍ブツを定期購入のために通ってもいいと考えているから、探索する店は尽きようはずもない。

 今日も。まったく知らない土地に向かった。

 まったく知らない列車の通過する線路の高架下を抜ける道路を走った直後、ダバダバダバダバダバダ。

「あれ、この音……追いかけてくる」

 背後からダバダバダと音が聞こえる。変な音だ。アホなことに、アクセルをひねる。エンジンの回転数を上げるほうに。ダバダバダ! 音は大きくなるが、速度は落ちた。

「ひっ」

 と、なって、六速から二速に落とし、バックミラーを見て、近づいてくる後続車を先に行かせるべく端に寄って、時速二十キロほどで走りながら、振り返る。

 後輪が、ぺちゃんこであった。

 ダバダバダ、は、空気の抜けたゴムのかたまりを、後輪のホイールにまとわりつかせて走っているために発生する異音だった。アスファルトをゴムで無限にくり返し叩く。そりゃ聞いたことのない音である。

 私を入れて250kg以上はある車体が、新品のタイヤをぺちゃんこにしている。

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『ひとのタイヤ見てわがタイヤを交換する』の話。

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 二年前で、なにが新品か、と言われそうだが、新品の証にタイヤ表面のヒゲもまだ生えそろっている見た目。それくらい走っていない。モノとしては経年劣化以外の摩耗はない。それを我がホイールで切り裂くかのようにし走らざるをえない苦痛。

 チューブレスなんですけど?

 さっきの列車高架下の暗がりで、釘のようなものを踏んだとして。穴が開いても、分厚いゴムのチューブなしに、小さな穴。こんな、見る間にダバダバダ言いはじめるか? 自転車競技を題材にした小説を書いたことがあるので、エンジンバイクと同じ構造の自転車用チューブレスタイヤの資料などを読み込んだことがあるが、チューブレスの利点として、パンクしても空気がすぐに抜けたりはしない、という記述を読んだ。バイクのタイヤ、それも私のはアメリカンで、後輪だけ異様に太い。ゴムも自転車とは比べものにならないくらいに厚い。それなのに、これはいかに……

 いかに、などと言っていてもどうなるわけでもないので、見知らぬ町のバイク屋を検索するために停車しようとしたそのとき。

 彼と目があった。

 つなぎ姿だ。

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 シャッターの前に立っておられる。

 私を指さす。バイクを指さす。
 唇だけで、三文字を私に伝える。

「ぱ・ん・く」

 わかってますよ! ダバダバダ言ってんでしょ……ていうか、あれ、いや、もしかして。でもだとしたら、あまりにタイミングがよすぎる。あの薄暗い高架下で、なにか尖ったものを踏んだのだとしたら、因果関係を疑ってしまうくらいに。

 思いながらも、そのシャッター前に停車する。自分で言うのもなんだが、黒ずくめな男が凹みも傷もある黒い年代物の国産アメリカンで走っている。話しかけてくるひとはまずいないし、むしろ目をそらされる。好きでそういう風体で走ってはいるが、そんな自分にパンクしてるよ、とわざわざ声をかけてくれるヒトが敵であろうはずもないという地上の清廉さを期待する自分もいる。

「……お店、ですか」

 降りたシャッターの上に掲げられた文字列を見上げながら、私は言った。アルファベットで十三文字。なんの店かわからないが、その前に、つなぎのひとが立っていて、そのアルファベットの列から連想するのは、某バイクで有名な映画。

 いや、ここが仮にバイク関連のなにかの店だったとして、こんな道路脇で看板を掲げるなら、店名よりもまず、販売とか修理とか、電話番号などを書くべきではないか。言ってしまえば、もしもバイク屋なのだとしたら、その英単語もカタカナにしておかないと、原付の近所のおばちゃんなどが近づきがたいのではないか。

 そんないらぬお節介を思いつつ、そのひとを見る。

「おう」

 言って、シャッターを開ける。
 おう。

(まごうことなきバイク屋さんだ……)

 個人で所有しているはずもない多種多様な数十台のバイク。整備台が中央にあって、天井からはクレーン。ということであるならば、これが罠であっても言わずんば。

「今日は、お休みなのでしょうか」
「いや、なんちゅうか」

 あいまいである。ニュアンスを汲み取るに、休みではないがシャッターは閉めていたということか。いちげんさんおことわり? にしてもバイクの整備をガレージ内でするなら、シャッターは開けておかないと排ガスやらシンナー臭やら、充満してしまいそうだが。休みではないが作業もしていない? しかし、つなぎをお召しになられている。バイクに触らないときでもそういう格好のひとということなのか。

「バイク屋やけどなあ……カワサキの、こんなタイヤは置いてないわ」

 言葉をさがす私に向こうから話しかけてくれるやさしい。バイク屋なのか……でもカワサキどころか、どこの純正店であることもうかがわせるロゴはない。カスタムバイクなどのお店か? しかしてシャッター内に置いてある客からの預かりものらしきバイクのなかには、ビッグスクーターが多いものの、ごくごくノーマルな原付オートバイもあった。

「そうですか……すぐそこで、タイヤが逝ってしまって」
「釘でも踏んだんかい」

 と、近づいてきて身をかがめた彼が、怪訝な声を漏らす。

「これ、チューブレスやん」
「そうですけど」
「いやいや、ちょう見せてもらってええか」

 許可を求められた。バイク屋である。つまりそこには金銭の受け渡しが発生するが仕事に入ってもいいかということである。ちなみに私の車両保険にはレッカー移動が入っているので、無料でレッカー車を呼びつけることは可能。

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『私のバイクがレッカー移動されていく』のこと。

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 実際に呼んだこともあるので、知っている。めっちゃ待つし、バイクを持っていかれて運転手は立ち往生する。ヘルメットを提げて、さっきの高架の上を走っていた線路をたどって、最寄りの駅まで歩くのか。それとも彼に、頼るか。

「おねがいします」

 バイクを降りる。
 グローブとヘルメットを脱ぐ。
 キーを渡す。

 で、見てもらってすぐに、これが仕組まれた詐欺などではなく、単純な整備不良であることが発覚する。

「これ、前輪がスナップインで、後輪がクランプインバルブなんやけど。改造したんやなくて?」
「純正です」
「後輪が太いからか。カワサキおもろいなあ」

 ええ。カワサキ純正パーツを扱っているお店でも、ほぼすべてがお取り寄せになる。バイクごとにこだわる結果、変態的なことを平気でする。私の愛車は、ドラッグスタイルのアメリカンだけれどVツインエンジンでスポーティーに走れますという、おかしな謳い文句で売られていたいまは絶版のバイク。重心が低くて胴が長いから曲がれないアメリカンがスポーティーって。加速するけど曲がれない。実際、街なかで乗りやすいバイクではない。だがしかし変態的であるからこそ、そういうものに惚れてしまう私のような層がいる。

「こんなとこ、でもゆるまんよふつう」
「お恥ずかしい」
「タイヤ新しいやん。自分で?」
「いえ。お店で」
「せやったら、増し締め忘れたんかなあ」

 増し締めというのは、ネジを締めてから機械を動作させて、もういちどゆるみがないか見る工程。忘れたんかなあ、という表現が、そっと私のかかりつけバイクショップを非難してくださっている。だが、ヒゲも生える新品にしか見えないそのタイヤを交換してもらったのは、実のところ二年前だ。二年前に締めたネジがゆるいやないかいとカチ込んだら、私のほうが「自分で整備できないなら年に一回は点検受けてくださいよ」と怒られるだけだろう。

 クランプインバルブというのは、こういうの。

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 黒いゴムの部分で、タイヤホイールの内側と外側を挟んで、ナットで固定してある。それだけ。書いてみておそろしいことにそれだけ。

 つまりナットがゆるむと、空気が漏れる。

「こんな急激に抜けるものですか?」

 バルブがゆるんで空気が抜けたということは、締めれば直るということだけれど、私もナットを締める工具くらいはバイクに内蔵してあるが、直したところで空気を入れられなければ走れない。さすがにエアーポンプを収納するスペースはスポーティーを謳うバイクに存在しない。

 彼がここで、閉まったシャッターの前で通りがかった私を見つけてくれなければ、それこそレッカー待ちになるしかなかった。それを嫌がる私が、道路沿いに街のバイク屋を探して、二年経つにせよ新品同然のタイヤをズタボロにしてしまったかもしれない。

「せやけど穴もないしな」

 言いながら、石けん液をタイヤに塗りたくる。締め直したバルブのまわりは入念に。まるで泡は出ない。穴もなければ、ホイールとナットにも隙間はない。

 ただ、ゆるんだだけ。
 ゆるんだからダバダバダっと、空気が漏れた。
 ぜんぶ漏れた。
 たぶん、ちゃんと点検していたら気づくこと。
 恥ずかしい。

「ほんとうに助かりました」

 財布を出す。
 彼は、ちょっと考えて言った。

「じゃあ。千円」

 払った。帰ってきた。いま、タイヤ交換してもらった店に行こうか、いっそ点検に預けてしまおうかと考えながら、あばれるバイクを制御したせいで両腕が痛くて、緊張のせいか胃も痛むことに気づいたところ。

 次の休みにするか。
 ダバダバ音立てて走ったせいでタイヤのフチが破れたり、ホイールが歪んだということは充分に考えられる。数日で空気が抜けるかどうかも確認したいしな……

 ……そんなことがありました。

 怪談めいているのは、帰ってきて検索をかけても、そのバイク屋はまったくヒットしないということ。グーグルアースで確認すると、アルファベット十三文字の看板は見つけられたが、やはりシャッターは閉まっていて、どこにもバイク関連の表記やロゴもない。ただの民家のように表示されている。

 あまりにもタイミングよく現れた彼は、実在する人物だったのか。けれども私は、その彼に直してもらった愛車で家まで無事帰ることができたのだ。

 ニンニクの芽が売っているかどうか確認しに、見知らぬスーパーへ行くのは断念して帰ってきた。

 大阪界隈で、冷凍にんにくの芽カット500g、もしくはそれに類した商品を購入できる実店舗について情報をおもちのあなたさま。ちょろっとメッセージの一通も入れてくださったり、なんらかのご自身の媒体を使ってネット上にアップしてくださったりねがえませんでしょうか。検索しても通販情報しかヒットしなくなった世界。それでも現実世界でさえわかりにくい看板しかあげないそういうバイク屋や、ホームページを持たない私の妻の実家の花屋なども営業中。ネットで世界はつながったのでしょう? だったら教えて。こっちから買いに行くから。




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 上の写真は、下の記事で使用されたもの。

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『ヒトはヒフ呼吸をしない』のこと。

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 数十年単位で使い続けている台所の洗剤置き用ラック。鉄製。余っている下地塗料で白く塗りました。というだけの話。

 そして今朝。

 洗剤が落ちた。
 錆びて底が抜けた。
 いよいよかと思ったが、指で押し戻し、千切れた部分はハンダ付けした。

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 地域的なものなのか、年代的なものなのか、私は中学のとき技術家庭の授業ではじめてハンダ付けに触れたのだが、そのとき筆立てを作った。周囲に話を聞くと、ハンダ付けの授業なんてなかったというひとも多い。そして、授業でハンダ付けをしたひとも、多くはラジオや電子楽器といった類のものを作っている。つまり電子基板のハンダ付けだ。私が習ったのはそういうのではなくて、金属板と金属板をハンダで隙間なく留めて、筒状のオブジェを作るというものだった。いちおうペン立てということで作ったが、金属板の端を処理したりもしなかったから、カッティングエッジな指先ぱっくり裂き筆立てとなって愛用はできなかったのだけれども。さっぱりまわりでは聞かない、接着補強のためのハンダ付けというものが最初のハンダさんだった経験が、私にいまでも影響している感は否めない。

 ハンダではなく、パテの類を使えばもっと強度が出たような気もするが、それでも使用に問題ない状態に戻ったので、私のハンダさんに対する信頼度は今年も変わらない。ただそのうえで、今年はいちど、ジェッソをやめてみようかと。

 いちど、というのは、別に毎年(と決めているわけではなく、使用に耐えなくなったらの頻度で、それは近年、間隔を狭めてきていた)、前回の塗料を剥がして塗り直すわけではないから。というか、そんなことをしたら、塗り重ねた塗料で保っているようなラックだ。粉塵と化す。

 なので、いちど、今年は強度面の問題でも強い塗料を塗ってみようということもあるし、ハンダを使ってしまったので、そこが剥き出しだったり耐水性皆無なジェッソ塗料で覆われているだけでは、台所で使うものとして毒性の心配が……というようなところを払拭しておきたい気持ちもある。

 あたりを見回す。塗料……私は、このラック同様、数十年物のカワサキの黒いバイクに乗っていて、コケたのもいちどや二度ではなく、私の折れた骨は自然に治っても、バイクの傷はせめてなにか塗っておかないと、露出した鉄部は錆びていく。

 なので黒い塗料は、ガレージにたくさんある。

 でもなあ。車用の塗料は、高級品だ。で、高級なので、バイクの補修にも、目立たないところには、安い多用途の水性ペンキを使っている。

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 これでいこうか。
 台所の洗剤ラックを黒に塗るというのは、家人に不評であろうことは予測できるが、朽ちたラックに洗剤を置くよりはよかろう。みなもこのブログは読んでいるので、またそろそろ画材で塗ったりするのでしょうと思っていたらペンキで塗られて、かえって歓ぶかもしれない。買い換えるという選択肢は、それこそこのラックが粉塵と帰すまでないだろうことは、読めば伝わっていると信じたいところもある。

 塗った。
 2019年モデル。

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 吸盤をはめてあったところも朽ちて千切れたから、ボルトナットで補修した。ちょっとロボっぽくなった。

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 ということをやっていた午後、ニュース速報を見る。

 神戸で発砲事件。ひとも亡くなったらしい。ハンダ付けを習ったころ、神戸と大阪のあいだに住んでいた私は、母から「遊びに行くなら神戸ではなくて大阪に行くのよ」と言われ続けて育った。流れ弾に当たるかもしれないと、仁義なき戦いの国に生まれた女は映画と現実をごっちゃにしとると笑っていたが。

 いまニュース映像で流れた道は、ついこのあいだ歩いたところだ。

 こんなボロボロのラックを直しても流れ弾に当たって終わるということもあるなら新しいのを買っても……と夢想して……新しいの買ったばかりなのに流れ弾に当たったら、私はきっと「新しい100均のラックを買ったばっかりなのに……」と最期に想いながら逝くことになってしまうだろうから、どうでもいいものは、いまわのきわに想い出さない程度の状態で使い続けるのがやっぱりよいかもと思って作業を進めました。