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 第71回カンヌ国際映画祭で是枝裕和が最高賞パルムドールを獲得したというニュースに触れて、そりゃあめでたいなあ、では過去作のことなどを思い出して書こうかなあ、と思い出してみたら五年前。

 第66回カンヌ国際映画祭でエキュメニカル賞を獲ったときに、すでに熱く監督のベストは『空気人形』だ!
 人間なんてみんな風船だ!
 オナホールだ!

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『空気人形』の話。

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 みたいなことをやっていたので、今回はただ、ずっと好きですおめでとうございます、とだけ綴って別の話題にしたい。

 映画熱が盛り上がったので、そんな話を。

 『空気人形』を語ったさらに五年ほど前、テレビで格闘技を観ているさなか、とある短編小説のことを想い出したという話を、ここでしたことがあった。

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『あなたの人生の物語』の話。

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 『あなたの人生の物語』は、テッド・チャン1998年発表の作品で、日本語で読めるようになったのも二十一世紀になってすぐのこと。テレビを観ていて感動したスポーツとその小説が結びついたということは、私のなかに『あなたの人生の物語』という短編の与えたものがきれいさっぱりは溶けきらず、濁った残りを私が無意識下であったにせよ読後ずっと「これはなんなのか」と考え続けていたということを指し示している。

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 あの短編を、いずれ映画化したいという方向性で、これほど長くこねくり回していたひとたちがいたのだということには、少々のおどろきをおぼえた。世に出て数年後に極東の言語にまで訳された小説だ。それだけ世界的に評価が高く、売れる見込みをもたれていたということだ。映画化するならば、とっととそうすれば動員数が見込めたはずだ。

 監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが撮った映画化『あなたの人生の物語』は、日本でも昨年公開された。ちなみに監督は、そのあとに、かの名作の正統続編『ブレードランナー2049』を撮っている。

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 監督よりもむしろこちらのほうが私的には興味深い、脚本を担当したのがエリック・ハイセラー。

 昭和生まれのホラー映画好き方面では、二十一世紀に『エルム街の悪夢』を蘇らせた脚本書きとして名高い。

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(寄り道になるが、新生『エルム街の悪夢』の脚本はとてもよくできていると思う。オリジナルのおどろおどろしさが薄れているという声を聞くが、それはたぶん役者にとっても監督にとってもフレディがすでに個人的ヒーローな存在だったがゆえに神格さが宿ってしまったせいだろう。ホンのせいではない)

 そして本邦的には、『君の名は。』のハリウッド実写化脚本を担当する人物として、最近ニュースになっている。

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 なぜに監督よりも、脚本エリック・ハイセラーに興味が湧くのか。『あなたの人生の物語』と、その映画化『メッセージ』の両作に触れたかたならば、みなそうであるはずだ。

 そう、タイトルからして変えてしまった。ベストセラー小説の映画化を違うタイトルにするだなんて、大々的に東宝が金を出している『Your Name』では起きないはずの事態だ。しかしこの件に関してはたぶん、原作者テッド・チャンも、そうして欲しいと望んだのではなかろうか。

 原作小説の原題は、

『Story of Your Life』

 ほぼ邦訳もその通りに『あなたの人生の物語』。

 映画化において変えられた映画の原題は、

『arrival』

 『メッセージ』と邦訳してしまったのは意味を曖昧にしすぎてキャッチーさを減退させた愚策だが、いくつもの意味を含ませてあえて改変した映画原題を、そのまま日本語に持ってこられるような単語は、私も思いつくことはできない。ひねった長文になるくらいならば『メッセージ』も良いのか。ちなみにarrivalの意味としての日本語は「到着」「到着すること」「到着した者」「出生」「新生児」などが辞書にはあげられている。

 『あなたの人生の物語』は、ひとりの少女が生まれて死ぬまでと、その母親がエイリアンと触れあうことによって娘と、そして自分自身の人生を別の視点から見るようになるという短編だ。

 実に情緒的なテーマではあるが、エイリアンとの遭遇譚であるからには、超文明科学的な描写も多いサイエンス・フィクション。

 この映画を撮るのにこれだけの時間がかかった理由は、もしかしたら、そこにあるのかも知れない、と観ながら思った。

 多くの空想科学技術が、小説から映像化される過程で、変貌を遂げている。映像的なことでなにより違うのは、原作小説では「ルッキンググラス」と呼ばれる、エイリアン=ヘプタポッドの姿を映し出すはっきりと機械的な遠隔投影装置が、映画では実体なのか投影なのかさえ曖昧な仮想現実空間そのもののように描かれること。そこで出遭っている相手が、仮想でも現実でも大差ない、という感覚は、二十世紀末に生きる私たちにはなく、テッド・チャンの想像力も、現実と見紛う映像を投影する装置でヘプタポッドがコンタクトしてきたという設定にとどまっていた。

 登場するガジェットということでは、言語学者が活躍する必然上、二十世紀に夢のマシンだったがいまではだれもが使う電子携帯端末類の描写のほうこそ、いまこの映画がこうなった理由の大きなひとつではある。

 『あなたの人生の物語』で、言語学者の彼女は、ヘプタポッドの記述する文字を、最初は切り貼りしているが、習得しようと「紙に書き」そのうちに手書きできるようになる。そのことが、小説では非常に重要な転換点。彼女は、エイリアンの文字を手で書いて操ることができるようになったことで、エイリアンの思考方法にも近づいていく。

 一方の映画『メッセージ』では。

 彼女は、物語の最終段階になっても、手で文字を書かない。ヘプタポッドの描いた文字を取り込んだ、データ端末のタッチパネルに英語で入力すると、データを切り貼りしたヘプタポッド語の一文ができあがるシステムを使っている。

 だがしかし、映画の彼女も、小説の彼女と同じ気づきにたどり着く。

 あのころならば、このような小説と映画の差違は、観客に受け入れられなかった。どちらの感覚でも中途半端な時代で、キーボードで画面に打った文字に言霊が宿らないなどと考える人々はほぼいなくなっていたが、大多数の高校生が紙の便せんではなくソーシャルネットワーキングサービスを経由して愛の告白をおこなうようになるなどとは夢にも思っていなかった。

 二十一世紀の初頭にベストセラーとなった『あなたの人生の物語』の映画化権獲得競争は熾烈を極めたはずだ。そうこうしているうちに、現実世界の言語学者が液晶画面のついたモバイル端末を使うようになってしまったのだろう。

 ブログという言葉のなかったころからブログを書いているので、私はたびたび自分が興味のあることを検索して、他人の書く私の文章を読んでしまうことがある。たとえば『トミカ博』や『エヴァンゲリオン新幹線』という語句を来年あたりに検索すると、今月、私が書いたものの一部を切り貼りした他人のブログを読むことになる。

 あのころ、そういうブログはすべてを丸写しした広告料目当てだけの単に盗作と呼べるものだったが、現在は違うケースも多い。ネット上で公開されている文章そのものがフリー素材としてあつかわれ、彼ら彼女らは、まぎれもなく自分で足を運んだトミカ博や、自分で撮ったエヴァンゲリオン新幹線の写真に添えて、私の書いた文章の一部を使う。ちょうどいい言葉を先に書いているやつがいるので、それを使って彼ら彼女らの言葉を綴るのである。

 そういうものに触れたとき、私はその文章を「他人の書く私の文章」と感じる。現実には電脳空間上でのことだから、作業のほとんどはコピー&ペーストでおこなわれているにしても。ああこれはいまの気持ちに近いことを書いている、と思われる文章をあちこちから持ってきて、それらをつなぎあわせ、補完の文章だけをいくらか書く。ほぼコラージュだが、もともとコラージュというのは糊付けという意味で、既存の写真の部分を切り貼りして、新たな「自分の」作品とする行為のことだ。

 いま映画『メッセージ』で、片手で支えられる端末のタッチパッドに英語で入力してヘプタポッド語に自動翻訳するシステムをもってエイリアンと会話する彼女を、我々は「ヘプタポッド語を話せる」と見る。他民族と会話するのに紙の辞書をいちいちめくるだれかよりも、優秀な翻訳ソフトを駆使できるだれかのほうが、他民族の言語をうまく操れていると判断する。

 過去と未来の映像のコラージュ。それが『あなたの人生の物語』の、もっとも心を打つ構成の魔法だった。

 十年ほど前に私が、つぶやいたこと。

 ボクサー人生は多くの場合トップ選手でも二十代のなかばには終わる。それがわかっていながらなぜそこにすべてをかけるのか、というのが愚問なのはだれもが知っている。なにを得ようが、なにを愛そうが、抱きしめようが、永遠などなく、すぐ先には喪失しかない。しかしだからこそ、一瞬でも得て、愛し、抱きしめたならば、多くのひとは、いまわのきわに、生まれ変わっても、もういちどあの刹那のために同じ人生を歩む、と決意する。

 映画『メッセージ』では、だが、物語の主役であるはずの「あなた」……少女の人生の描写を大きく削り、原作小説よりもメロドラマ調な直球で泣ける設定に改変している。

 おそらくは、そのことによって映画化のタイトルも変えられた。そして、少女の人生の代わりに映画脚本で時間と存在感を与えられているのが、中国だ。

 『メッセージ』のエイリアンは人類をいきなり襲ったりはしないが、徹頭徹尾に凶悪なエイリアンと人類の闘いを描くシリーズの最新作『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』でも、中国は台頭していた。

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 地球を救う司令官もパイロットも中国語を話す。娯楽映画なので、理由は推して知るべし。中国の映画興行収入は、いまやアメリカのそれを抜く勢いなのだから。中国でウケるように中国を描くこともだが、それ以前にまず全世界公開で皮算用しているハリウッド映画が、万が一にも中国政府の逆鱗に触れて公開中止の判を押されると、予算未達どころか赤字確定な末路となる。

 という意味では『メッセージ』。

 なかなかブッ込んできている。

 以下、映画独自な内容の微バレ。バレたところで感動の減る脚本の作りではないものの、いちおう映画を観ていなくて、なにも細かいことは知りたくないというひとはページを閉じてください。

(そもそも、そんなひとは、これをこんなところまで読んではいないでしょうが)

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 原作小説にまったくない描写だが、『メッセージ』では中国軍のトップが、ヘプタポッドを一方的に排除しようと全面戦争を仕掛けるために地球の危機となる。

 そしてまあ、ヘプタポッド語を操れるようになった言語学者が、娘の人生の話は横に置いておいて、ヘプタポッドの代わりに、その言葉と意志を中国軍武闘派シャン上将に伝達し、危機は回避されるのである。

 エイリアンといかに相互理解して地球人がさらなる精神の高みに到達するかというのが物語のキモだし、すでに『メッセージ』は中国でも公開されているから、もちろん中国軍が最終的には人類を救う(そもそもエイリアンにケンカを仕掛けて危機を作ったのも彼らではあるのだが)。

 そして驚いたことに、脚本エリック・ハイセラーの魔法。

 死にゆく我が娘の人生という題材を縮小して、地球人類の危機を物語の前面に推した結果、我々に気づきを与える。

 原作小説に、忘れがたいこんな一節がある。

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 わたしたちは台所用品のコーナーを通りぬけていった。わたしの視線がそこの棚をあちこちと──ペパーミル、ガーリックプレス、サラダトングと──さまよい、最後に木のサラダボウルのところでとまった。
 あなたは三歳のとき、キッチンのカウンターにある布巾をひっぱって、そのサラダボウルを自分の頭の上におっことしてしまうでしょう。


テッド・チャン 『あなたの人生の物語』

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 だから「わたし」は、そのサラダボウルを買う。
 「あなた」が緊急治療室で頭を何針も縫うことになる原因を。

 映画『メッセージ』の脚本で、このエピソードは切られている。木のサラダボウルよりも、肌感覚で伝わる「いま」が、あるからだ。

 「わたし」は、武力を持つ。
 それを有する隣人も許容する。
 いつか「あなた」を含むだれもの頭に落ちて大ケガどころか……

 それでも。
 と、考えたとき。
 現実の私にはいない三歳の娘を想って胸を詰まらせながら、私も、もちろんその木のボウルに手をのばすと思うように。シャン上将と笑顔で握手を交わし、売らなくていい相手に宇宙戦争を売りかけたニアミスを許容している自分を思って。

 自分がここにいることが、まず奇跡なのだと、大きく息を吐く。

 『あなたの人生の物語』を読んだときと、同じに。

 わかったうえで原作を改編し、この映画を成した彼らにディープキスがしたい。奥歯の裏側まで舐めたい。愛しくてならない。戦争モノに変えてしまったのにだ。

 この時代、このバランスに投下された、ああこれをあの国でも観て許容されているのか、という意外な感じも含め、宇宙規模のラブストーリーに仕上がっていて、震えがくる。ふつう変えないだろう、あの傑作原作を。ぜひ観ていただきたい。観ていないひとはページを閉じてくれと書いた先で、こんなシメもアレですが。

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 確かに、カタカナで『アライバル』と書くと、チャーリー・シーンからはじまる宇宙人が侵略してくる映画シリーズを連想してしまう昭和生まれのB級ホラー好きです。そんな私でも、小説では二体のヘプタポッドをフラッパーとラズベリーと呼んでいるのを、映画ではアボットとコステロにしたのは、どうかと思う。ヒロインは笑っていたから、あっちでは超有名なのだろうが。私は映画『メッセージ』を観終わったあとで検索をかけてはじめて、そのふたりが伝説のコメディアンであることを知りました。1950年代に活躍って。再放送が繰り返されていたにしても、ヒロインの年齢的に無理がある気がする……はっ。それも時間軸をブレさせる脚本魔法の一環なのかも……などなどと、あちこち深読みしたくなる。

(本当に蛇足になるが、2017年の第90回アカデミー賞で『メッセージ』は脚色賞にノミネートするも、受賞したのはジェームズ・アイヴォリー『君の名前で僕を呼んで』だった。原題『Call Me by Your Name』。私は学生時代にアンディ・ウォーホルについて論文を書いたことがあるので、ジェームズ・アイヴォリーの名は年表で知っていた。最先端ジャパニメーションラブストーリー『Your Name』を脚色中の売れっ子エリック・ハイセラーが宇宙規模の崇高なるラブストーリー『メッセージ』を仕上げてきたのに、かつてはややこしい設定の映画を量産していたいまや90歳にならんとするモノ書きが、24歳の青年に恋してしまう17歳の少年の美しさを描ききってアカデミー賞を奪い獲ったのである。熟すことで描けるようになる恋の機微もあるのだなあ、たゆまず精進しないとなあ、と、これも映画『メッセージ』にまつわる、私の得た悦ばしいことだった)

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1960年ごろには、ブラッシーというレスラーがいた。噛みつき攻撃が得意で、日本へやって来たときには、尖った歯をヤスリで削ってみせた。

1970年ごろには『007 私を愛したスパイ』に、ジョーズという殺し屋が現れた。噛みつき攻撃が得意で、彼の尖った歯は金属だった。

靴のサイズが36センチと噂の、日本の大きなレスラーが、その役を演じないかと誘われたが、撮影でプロレスを休めないからと、断ったと聞く。

もちろんジョーズというのは、1975年の映画。

Jaw=アゴ。

ジョーズとはアゴの複数形。
実話をもとにした小説の題名。
このあいだUSJでジョーズのアトラクションに乗った。
そして思った。
さすがに七十年代の恐怖映画は、近ごろテレビ放映されているのを見たおぼえがない。
子供どころか若者という年齢でも、あれを観ていないひとは多いはず。
外国のビーチでは、

「自己責任で泳げサメが出る」

という看板もある。
しかし日本の海で見たことはない。
背ビレだけが水面に現れ、迫ってくるという恐怖は、水面下のサメが想像できて、さらにサメの凶暴性も知らなくては恐がることができない高度な恐怖。そもそも現実のサメにとって、背ビレはバランスをとるために必須だから進化したもの。

水面から出すとまっすぐ泳げない。

サメ襲撃事件は事実だとしても、あの画自体はフィクションなのだ。
それなのにみんなが知っている。
アトラクションのジョーズは、サメとは違うなにかだ。
現実のサメの歯は、カッターナイフのように使い捨て。
折っては出し折っては出しで、一生に二万本の歯をサメは使う。
ヤスリで削った永久歯ではない。
金属だったりもしない。
そんなにしっかりしたものではない。
酸素ボンベなんて噛んだりすると、すべからく抜け落ちる。口のなかに保持できないボンベを撃って爆発させることはできないから、大爆発のラストは現実にはない。

虚構の存在ゆえに虚構に死す。
現実から生まれたにせよ、龍や麒麟やゴジラとおなじ。
ジョーズは怪獣として認知された。

ブラッシーの削ってみせた歯は、ニセの入れ歯だったらしい。
幼いころプロレス図鑑で、尖ったジョーズの歯の彼を見て、自分の歯に鉄ヤスリを当ててみた私の純真さが私はなつかしい。

巨大サメのアトラクションで笑い、プロレスをプロレスとして観る。
いまやなにに心底から恐がれる?
大人になっても現実に怖いもの……
ヒト、くらいか。

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 水族館の定番である、入り口すぐは目の前に広がる壁一面の大水槽。その同じフロアに白くふやけたサメの歯を飾っているセンスが、さすが須磨海浜水族園。

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『神戸市立須磨海浜水族園』

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 相生で生まれた。

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『JR相生駅で新幹線を撮る』の話。

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 神戸から相生のあたりまでは、バス遠足といえば王子動物園とスマスイが定番で、私も幼いころからなんども行った。

 先日、相生帰りに「なつかしいなあ」とスマスイに寄ったら、デンキウナギが干されていた。

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 いや、言葉のあやだ。
 デンキウナギは水に満たされた水槽のなかに居たのだけれど、なんの演出もされていないので、ただのウナギでしかなく。同じフロアには水中から地上の獲物に水を飛ばして捕食するテッポウウオや、いわずと知れたハリセンボンなどがいるものの、それらも、水を吐かないテッポウウオは小魚だし、針を出さないときのハリセンボンは中魚にすぎない展示方法。

 デンキウナギの水槽の横壁面に、縦長い箱がしつらえてあるのが見えるだろうか。これを見て、私は私の記憶が誤りではないと確認できた。逆に言えば、これがなければ、私が見たあの光景はなんだったのだアブダクトされて植えつけられた捏造かと疑ってしまうところだ。

 縦長い箱は暗転しているが、電源を入れれば、あれはメーターである。テスター。電圧測定器と、正確にはその誇張回路をも含んでいる。

 つまりデンキウナギがビリビリッとやると、それを感知してメーターが上下し、色や音を発することで誇張もして、あたかもデンキウナギがピカチュウの親戚であるかのように演出するマシンだ。

 『テラフォーマーズ』の愛されキャラ、アドルフ・ラインハルト様はデンキウナギ人間だが……

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 放電すると自分も感電するという設定がある。オリジナルデンキウナギもそうだ。最大出力で放電すると、自分もよろめくことがある。しかし体脂肪率低めなラインハルト様とは違い、オリジン・デウギーは脂ののった美味しそうな生き物。ご存じの通り、スタンガンの説明書にはアンコ型の力士には効果がないむね記載されている。

 脂肪は電気を通さない。水族館で敵もなく、ぬくぬくとアンコ型に育った脂ののったデンキウナギは、自身の放電で気を失ったりはしない。

 というか、敵がいないのならば、放電する必要がない。

 よく、あのひとと目が合っただけで肌にびびっときた、というようなことを言うひとがいるが、機械で電気を読みとって心電図や脳波測定図が描けるのだから、そりゃあ好きも嫌いも一種の電気信号であって、現実にびびっときてはいるわけで。

 デンキウナギの場合、それを放電する器官が存在するために、敵を倒すほどではなくとも、なにか反応するたびに(泳ぐことも筋肉を動かすのでそれ含め)、微弱な電気が漏れてしまう。それを拾って誇張して、見るものへとデンキウナギのデンキウナギらしさを伝える装置が電源を切ってあるというのはどういうことかっ。

 やってはいけないことだが、私はデンキウナギの水槽のガラスを叩いた記憶がある。そしてそれに連動して、壁のメーターがビビビッと反応したから、おうこのデンキウナギはぼくを認識している魚って生きているんだ本当に、というようなことを、認識という言葉では思わなかったにせよ、思ったのである。

 その水槽の前を、いままさに魚に認識されて自己の存在認識をすべきお子様たちの群れが素通りしていく。だってメーターの電源が入っていないのだから。デンキウナギはふつうのウナギよりもデカいが、言ってもウナギだ。見目麗しくはない。スルーされている。すばらしいポテンシャルを秘めた水中の逸材であるにもかかわらず!

 あれか。イルカ猟の流れか。ついに哺乳類でもない魚のたぐいまでもが、見世物にするためにわざと脅かされたりするのは虐待だ見ていられないという批判が高まって、子供が素通りするデンキウナギの水槽になってしまったのか。

 だったら見せる意味もないからアマゾンの大河へ返してやれ!!

 それをいうなら、ペンギンのお散歩ショーも、なんてかわいそうな奴隷たちと涙してもよさそうなものだ。だれがスキ好んで人間の列にカメラを向けられてコンクリートの上を素足に全裸で歩かされるペンギン生など望もうか!!

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 えーマジでデンキウナギの電気メーター稼働していないってどういうことさ。と、かなりいきどおって検索をかけてみたら。

 なんのことはない。
 いまもメーターは稼働している様子。

 ちょっと前に、リニューアルと称して完全なショーとなったようだ。



 魚に虐待どころか、人間を撃ったり感電させたりしておる。さすがスマスイ。そのセンスフルな姿勢は一貫している。

 時間を決めて、魅せるスタイル。
 一日三回のショーが私の行ったときにはもう終わっていたから告知もなく、寒々しいデンキウナギくんを見せられることになったのであった。

 体験型なあ……

 私は、小さな手でバンバンとガラスを叩いて、ウナギが電気で自分に応えてくれたあの瞬間のことをこそ強くおぼえているのだが。

(人件費も、電気代も抑えられるし、まさに私のようにガラスをバンバンする子も現れないだろうし、短時間のショーアップで動画を拡散してもらうほうが集客効果はあるだろうし……だらっと放置展示するよりも、賢いやりかたなのは認めざるをえない。デンキウナギくんも労働と休憩の時間がくっきりしているほうがストレスは少ないでしょうし……)

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 いちおう補足として書いておきますが、幼いころの記憶だけをたよりに書いているので、本記事内容は史実とあいいれない可能性があります。遠足で行って観たということは、その当時もショーアップ的な試みはされていたはずで、もしかするとショーのさいちゅうにテッポウウオには興味が持てなかった私がまだ電源の入ったままだったデンキウナギくんの水槽へ忍びもどってガラスをバンバンしていたというのは非常にありそうなことです。






「やっぱすごいなあ500 TYPE EVA。いつかシンカリオンになったりしないかなあ」


『新幹線変形ロボ シンカリオン THE ANIMATION』
第17話「西へ!!シンカリオンVS大阪名物!?」

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 兵庫県相生市。
 ひょうごけん。
 あいおい。

 そこは私の故郷。相生病院で生まれ、相生駅から海へ至る商店街で育った。その商店街で祖父母は商売もしていたから、いまでも古いひとは私を見て「ああヨシノギさんとこの初孫の」と言う。

 造船業で隆盛し、それが廃れると街も廃れ、商店街もシャッターが降りたままの場所が多くなっていった。

 そんな相生だが、近年、その駅前に巨大な食品スーパーなどが新しく建ったりする。久しぶりに顔を出すと、見たことのない店が、商店街に新しく開いていたりもする。

 移住者を募る政策がうまく行き始めているのかもしれない。

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子育て応援都市宣言 AIOIあいおい【相生市】

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 幼稚園までもが給食費無料というのは全国の市で初だそう。移住を考えるのは、やはり距離からいって大阪在住のひとが多いのかも。そうすると検討するときに、相生にはアピールできる大きな要素がある。

 JR相生駅には新幹線が停まる。

 相生駅から新幹線に乗れば、新大阪まで四十分で着く。これはもう、大阪に不倫相手の彼を置いて移住したとしても、毎週末でも逢い引きに行ける距離だ。彼のほうに来てもらってもいい(年にいちどのペーロン祭のとき以外に需要はなさそうなのに、相生駅の前にどでかいホテルがあるのは、あながち私が言っていることも妄想だけではないということの証明ではなかろうか)。

 というか、大阪に住んでいる私はたびたび相生にある吉秒家の墓を参るのだが、普通列車で行っても新幹線の二倍でしかない。一時間二十分ほど。通勤する気にはなれないけれど、小旅行というほどでもない。

 というわけで、たびたび行くので新幹線は使わない(細かいことを書くと、新幹線を使えば時間は半分になるが、阪急電車を使うと運賃は三分の一になる。時間とは高価なものだ。しかして毎日の読書の時間を持つ私は、それを読むのが電車のなかでも酔ったりはしないから、混雑しない時間帯の電車はむしろラグジュアリー)。

 そんないつもの相生駅に。
 こんなのが貼ってあった。

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「エヴァ!!」

 と叫んだのは二歳の息子。ちなみに彼はテレビシリーズのエヴァンゲリオンを観ていないし、映画も観ていない。彼が言っているのは、本当に純粋に子供向け新幹線DVDで学んだエヴァンゲリオン新幹線のことである。

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「あーエヴァ、いなくなる言うてたなあ……」

 と私が言う。
 その情報を得たのは録画で観たアニメ。

 後ろに『残酷な天使のテーゼ』が流れているので、エヴァ方面的にも公式の発言で、お子様に「えっ、なに、次はエヴァンゲリオン新幹線がシンカリオンになるん?」と大興奮させながら、その同じ画面の下方にはお子様には読めない漢字交じりのテロップが流れていた。

「500 TYPE EVAは5月13日までの運行となります。運行最終日まで混雑が予想されますのでご注意ください。」

(そして当たり前だが息子は元ネタを知らないので人類補完計画をパロってテーゼが流れるという前振り段階ではキョトンだった。完全にあれは大人向けの仕込みだ)

 シンカリオン公式からの、大混雑予報発令だからな行くなら覚悟しろよ、である。

 覚悟しつつ、いかにも未来なことに、その場で携帯端末を使って運行情報に検索をかけてみる。

「なんということか」

 思わず言ってしまった。
 もう少しで、まさしくJR相生駅、そのとき私のいた頭上のホームにエヴァンゲリオン新幹線500 TYPE EVAが到着するのだった。

 大混雑は苦手だが、こんなタイミングでここにいて、撮りに行かないという選択肢は、ない。よし、行くぞ!!

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 ここがJR相生駅改札口。
 勢い込んで、右の新幹線改札口へ向かってしまいそうになるが、相生駅まで電車で来た、その切符で入ろうとすると改札が鳴り、駅員さんに肩を叩かれる。

 いったん左の出口を出ましょう。

 出て、すぐ右に券売機があるから、そこで入場券を買いなおす。改札を出る前に精算所があって、そこに駅員さんもいるので、声をかけてどうにかすることができるのかもしれないけれど。お手を煩わせることはなし。自動券売機というものがあるのだからそれを使おう。

 新幹線改札専用の入場券が売られているわけではない。相生駅全体に入ることのできる入場券が一種類だけ。心細くならなくていい。ボタンは右上。それが正解。それを買って。

 140円。

 本来の使いかたとしては、大阪に帰る不倫相手に相生駅のホームで抱きあって口づけて気分を高めるような場合が想定されていて、痴話喧嘩があったとしてもそれくらいでやめてくれという意味なのかなんなのか、入場券には二時間以内にまた改札を出なければならないという時間制限がある。

 入場券で電車に乗るのも禁止。でも、新大阪に帰る不倫相手がいなくても、電車を撮影することは許される。二時間のあいだならば。

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 ひかりレールスターが停まっていた。私は詳しくないので、二歳児が叫んでいたそのままを書いている。対岸に停まっているだけのそれに、跳びはねて大興奮しすぎて怖い。エヴァが来たら失神するんじゃなかろうか。

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 ひかりだかのぞみだか知らないが、N700A通過。小学生や発音ミク(誤表記ではない「発」)が操縦者ななか、男子中学生おにいさんが操るシンカリオンと同じ模様なので、N700Aだということだけわかる。

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 だれが操縦していようがどうでもいいが、特筆すべきは、両岸のホーム。見て、だれもいない。そう、その日の昼前、こっちのホームでも向こうのホームでも、入場券で入ってカメラをパシャつかせていたのは私だけだった。拍子抜けである。新大阪には常時撮り鉄さんが多数だし、姫路では相生と同じく、減速せずに通過する新幹線が撮れるということで有名なのは私も知っている。いや、でも、もうちょっとで運行やめてしまう500 TYPE EVAが、もうすぐここへ来るのに、ひとりもいないのか。シンカリオンの注意喚起はなんだったのか。

 時刻表を読み間違えたのだろうかと不安になるなか、間もなくそれはやって来た。

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 エヴァンゲリオン新幹線500 TYPE EVA。
 私の目の前に。

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 乗ることはできないから、息子と手をつないで最後尾まで歩いていき、横腹の500 TYPE EVAのロゴの前で写真を撮った。数年後の彼はまだ電車好きだろうか。だとしたらまるで興味がないのにこのタイミングで写真を撮っておいた私に感謝するだろう。本当に偶然に、そこに居ただけなのだけれど。電車の写真を撮るのに入場券で駅のなかに入ったのなんて、生涯で初めてだったのだけれども。

 そして思う。
 エヴァンゲリオン新幹線500 TYPE EVAに関しては、もうすでにとき遅しな提案だが……

 姫路駅から、相生駅まで普通電車でも二十分。運賃は410円(2018年現在)。高速通過する新幹線を姫路駅のホームで二時間狙うならば、相生駅に移動したほうが、撮影条件が良いのではなかろうか。

 末期のエヴァンゲリオン新幹線500 TYPE EVAの切符を買って乗っておられるひとたちは、逆に、相生駅で降りるひとがいない。ホームに降りて記念撮影をしたりもしない。結果、到着しても車掌さんが顔を出すだけで、ホームの撮影者は私だけ。500 TYPE EVAのロゴの前で、エヴァンゲリオン新幹線が出発して去るまで、なんの障害物もなく撮影を続けたのでした。アップはできないが、二歳児がひとり手を振るホームを去って行く末期エヴァの動画まで撮ってしまった。

 満足。
 新幹線の撮影に、相生駅オススメ。トンネルから新幹線が飛び出してきて飛び去っていく。駅全体がビリビリ震える。生きた人間を数百人乗せた鉄のかたまりが、最高速のリッターバイクと同じような速度で二本のレールの上を転がっていく。空飛ぶ飛行機よりも、神々しい存在に見えて、モータースポーツの観戦に似た興奮を、鉄ちゃんではない私でも感じることができました。

 二時間。140円。
 幼児が狂喜。
 こんな娯楽は、そう、ない。

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ハローキティ新幹線 HelloKitty Shinkansen | JR西日本

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 そして次はキティだって。
 なぜだかUSJでも大人気だし。外国の方々にはエヴァよりもキャッチーな存在なのかもしれない。ニッポンサイコー。

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