最近の記事

スポンサードリンク

月別アーカイブ

 石炭を蒸し焼きした燃料であるコークスはこの地上で最初に特定された発ガン性物質であるが、さらにそのコークスを蒸留して作る工業用クレオソート油などは、いまでも枕木などの防腐剤として使われている。数年前に従来型のクレオソートは店頭回収され、同じパッケージだが若干名称の変わった商品が戻ってきた。店頭に並ぶクレオソートのうち、もっともポピュラーな某社の商品『環境配慮型クレオソート』を手に取って裏返すと、こんなふうに書いてある。

『環境配慮型クレオソート』

● 可燃性液体
● 飲み込むと有害
● 発ガンの恐れがある
● 眼刺激性あり
● 皮膚刺激性あり
● 呼吸器への刺激の怖れ
● アレルギー性皮膚反応を引き起こすおそれがある
● 遺伝子疾患の恐れの疑い
● 生殖能または胎児への悪影響のおそれ

 ……だからといってクレオソートが売れないということはなく、必要なところでは必要な塗料であることは間違いがない。もともと腐ったり虫に喰われたりといったことを防ぐ塗料であって、あらゆる生き物も水も寄せつけない特徴こそが肝心かなめ……つまるところ、クレオソートは毒だから役に立つ。

 ところで、この三日ほど、私は胃痛に悩んでいた。ようやく収まってきたが、今回は断酒するほどひどかった。今回も、というのは、これはきつい締めきりの直後に多かれ少なかれ現れる不調であって、身近で似たり寄ったりな話をよく聞くので、きっとそういうことなんだろう……テンションの上がったプロレスラーが吠えて試合しているうちはなんでもなかった強烈なラリアートも放っていた右腕が試合が終わって帰って寝て起きたら腫れ上がっていて実は試合の序盤で折れていたらしい、というような……本来は書いている最中に発現するはずだったストレス性の胃炎が、試合中はナチュラルハイなテンションで抑えられていたのに、試合が終わって一週間もたったころ、てきめんにわめき出すのである。執筆中はメールして励まし合う相手と「どうせ倒れても書き続けるんだから無茶してるかどうかなんて考えても無駄だけれどご自愛を」だと発破かけあうものの、そういう心持ちのうちは、心も躯も無理を聞いてくれているのですね。自愛……愛を語るヒマもないほど要求ししつづけているうちは、相手も必死で限界を超えて応えてくれていたという皮肉。で……ふう……とため息をついたら「あ、もう終わったんですね?」と。ひでえお返しがかえってくるのだった。

 胃痛はまだいい。
 良くはないが、接客仕事中も、ごまかすことは可能だ。脂汗だらだらかいて、くの字に身を折りたい痛みを必死で我慢して笑顔をたもっていても、一期一会のお客さまは、そうそう気がつくものではない。なんかまぶたのあたりが痙攣していて、いまにも大声で叫び出しそうな店員だなと不審がるくらいである。実際叫びだしてうるさい黙れと目の前の相手を殴り倒したい欲求でいっぱいなのだけれど。
 しかして食事も受けつけないような一日目を胃薬でなだめながら過ごす地獄も、二日目のそれに比べればまだマシだ。
 二日間、一度も小便に行っていない。
 むろん、トイレに行かなかったわけではなく、逆に数十回は行った。
 眠る間もない。
 そう。前から出る水分など残っていないほど口と後ろが直結状態なのである。

 これはまずい。
 売り場に立てないのでは我慢もなにもない。
 最悪、オムツなどという手段も使った販売員を私は知っているが、やりたくない。
 眠れないまま朝をむかえ、自宅の薬箱をひっくり返した。
 そもそも私はあまり薬を飲まないので、ほとんど他人の持ち物が入った薬箱である。
 消費期限の越えたものも多い。

 そして見つけた。

 『正露丸』

 どこのメーカーのモノかを書いてしまうとブログタイトルからして訴えられる可能性もあるので詳しくは書かないが。
 (『正露丸』は類似した薬品群の一般名称であり登録商標ではない)
 消費期限が危ういものの、ほとんど使われずの大瓶である。
 買ったおぼえはないので、もらったのか、だれかのか。
 そういえば子供のころにはよく飲まされたおぼえがあるのだが(小学生当時の私は運動嫌いで暴食家の肥満児だった)、十代になって以降、飲んだおぼえはまるでない。そもそも胃腸は弱くないというのと、薬を飲むくらいに体調が悪ければ学校など休むという潔さがあったからだ。
 でも仕事ではそうもいかない。
 飲むか『正露丸』。
 ロシアを征する丸薬という由来だと聞いたことがある。
 極限で兵士が頼るほどの薬だ。

 成分を読んでみた。
 最大分量で入っている主要成分として、一番上に書いてあった。

●日局クレオソート

 ……クレオソート?
 ふたを開けて嗅いでみた。
 なつかしき昭和の香り。
 そして塗料をあつかうものならだれでも一発で当てられる。
 タール臭。
 その液体は、肌に触れたらダメなものと教え込まれた。
 発ガン性で自主回収したあの。
 クレオソートの匂い。

 調べてみた。
 すると日局クレオソートというのは工業用クレオソートのようにコールタールから作るのではなく、日本薬局方(薬局法)で定めるところの、ブナの木を熱分解する過程でできる木クレオソートのことらしい。そういえば、園芸の虫除けや、入浴剤としても使う木酢液の匂いだと言われれば、そうでもある。

 厚生労働省:「日本薬局方」ホームページ

 別物だが、aromatic compound(芳香族置換基)にhydroxy group(ヒドロキシ基)を持つ有機化合物=フェノール類、をともに多く含むので同じ名前にされているらしい。平たく言えば、似た匂いがするから同じ名前なのだ。しかし取扱説明書で、正露丸に含まれるクレオソートの効能が「腸内静菌」「腸の異常な運動を抑える」とあるのを読んだらもうダメだ。

 菌をよせつけず水を止める、って。
 塗料クレオソート油の効果そのままだよ。
 毒だ。役立つ毒薬かしらんが、もう飲めない。
 
 同じ匂いだけれど別物なら、それこそは別の名前にしないといけなくないか?

 古くから使用されている、って取説にも書いてあるが、それって薬において機能的な売り文句かなあ、という気もするのですが。少なくとも私は新発売の薬のほうが効く気がするのでそっちを選ぶ。
 というわけでちょっと早く出て、新発売の下痢止め買いました。
 効いた。
 
 おかげで、地獄の峠は越えたらしい。
 今夜は飲んでも平気かなあ……なあ、我が愛するカラダよ。
 あきらかにストレスかかるとわかっている状況で、胃の粘膜を直接傷つけるアルコールの毒を手放せない(熱いお茶を飲んでも胃は熱くならないのに、酒を飲むと熱くなるのはバリアを透過しちゃうからなんだね)……私に正露丸も自愛も語る資格はないですが。
 薄い腰をわななかせて弾けたとたん、飛良が、けほ、とむせた。
「飲んでしもた」
 あっけらかんと言い、口を拳でぐいと擦る。優也は羞恥と驚きでものも言えなかった。
「アレに使おうと思うたんに。しょうがねえな、なんかこう、滑りのいいもん……」

sakuya

 いつき朔夜 『二人がともにあるかぎり…』
         (文庫『午前五時のシンデレラ』収録)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「やけ、いろいろちゃ」
(吉秒訳:「だから。いろいろというのはどういうことだ?」)

 鬼族言語によく似た小倉弁(北九州弁?)をあやつる飛良は、まちがいなく私がいままで出逢ったBLキャラのなかでトップクラス。私、このキャラ好きです。あらっぽくて大雑把でしかし裏を返せば職人気質で繊細でもあって。入れ墨入れた元ヤクザで、訛っていて。強く、ときどき可愛い。とても万人ウケしそうなキャラではないですが、しかし、確実に愛らしく描かれている。作者のふところの深さに感服します。この人は一作ごとに舞台もがらりと変えてくる。競馬で、ゲーム屋、学芸員、その次がパチンコ屋で時代の波に押される釘師って。少女小説的に馴染みない職業が子細に描かれるので、BLというジャンルを意識せず、ごく一般の男性読者でもたのしめますよ本当に(もっとも濡れ場が盛り上がったところで的確にイラストが挿入されているので、電車の中で読んでいた私はその場面をあとで読み返すことになってしまいましたが。いつもに比べるとやさしいセックスが展開されるんですけどね、世界観がきな臭いのでそっちはセーブしたってことなのでしょう)。
 それにしても、ありふれた大阪弁しか所有していない(母親が広島なので広島弁も聞き取ることはできるものの)、私にとって、いざというときにキャラ付けできる方言という武器を持った方はうらやましくて仕方ない。大阪弁なら、

「せやから、いろいろてなんや」

 ポピュラーだといっても、飛良的キャラに文字で語らせれば、本当にただのヤクザのセリフにしか読めません。いわれてみれば鬼族の、

「だから、いろいろってどういうことだっちゃダーリン?」

 というのも、他に類を見ない架空の方言と「ダーリン」という呼称あってこそ主役キャラなり得ている。そうか手持ちの札がなければ想像力で作ればいいのかと、安易に妙な言葉遣いを与えてみれば逆にキャラが死ぬ、なんてことは実にありがちでして。鬼族創造者の偉大さは別格としても、ともかく手持ちの札が特殊だというのはそれだけで生来の才能とさえ呼べましょう。「貧乳はステータスだ! 希少価値だ!」(『SHUFFLE!』または引用した『らき☆すた』のほうが有名か)というのと同じようなものですね。それに悩む人もいれば、それこそを売りにできる人もいる。決意が人を作るのです。
 好きなシーンは、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 マスカラの流れたエリナの顔を思い起こした。それはひどく滑稽で見苦しくて──可憐だった。自分も誰かにとって何ものにも代え難い人間でありたいという思いが、胸の中でふくれあがった。


 いつき朔夜 『午前五時のシンデレラ』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 なんかなんでもないシーンで、しかも回想なんですが。実際のところ、電車の中で涙腺がゆるんだのはここでした。雑誌で読んだときはなんともなく読み流したところだったのに、文庫化までの期間で、私のなにが変わったというのでしょう(笑)。いや心当たりはありますが。重い話になるのでやめましょう。ああ、必要とされたいなあ、あなたに。そういう想いはすべての根幹であって忘れたとたんにひどい目にあうのです。忘れちゃいけないことを忘れないためにも、小説ってものはこの世にあるのかもしれないなあ、と思ったり。だったら作家は、あくまで当たり前のことをわかりやすく書かなくちゃいけないのだろうと思ったり。

 ほら重い話になりかけた。
 やめて話の続きを。
 冒頭引用がなぜこのシーンかと言えば、実は、そのシーンを読んで思い出した出来事をネタにしてさくっと書き終えるはずが、書評をはじめてしまって内容がブレているだけなのです(さらりと流すには惜しいくらいの作だということですよ。何度か『伝言』に来ていただいたからでなく、正味な話、今作は作者のこれまででのベストだと褒めちぎって良い出来なのです。一読あれ。飛良はぜひシリーズキャラにして欲しい。ほかの作品でトラブル解決役としての登場とかも香港ノワール好きとしては期待してしまいます。バイオレンス&ラヴこそヒーローの資質)。

 そのシーンのあと、アレに使おうと思っていた飛良は、飲んでしまったので代わりのアレに釘打ち道具の錆止めに使う椿油を持ってきて、食用にもなるから大丈夫だろうと潤滑油として優也にたらす。それを職場に向かう電車の中で読んでいて、そういえば昨日、消耗品の担当者が棚替えをやっていたなと思い出した。
 秋口なので、夏物を片付けてハンドクリームの棚を作っていた。
 そういえば。
 数年前、私はひどい手荒れに悩まされていて、冬場になるとピキピキひび割れた手のひらに血が滲むような状態が続いていたのだけれど。

「あれ? 去年、ハンドクリーム買ったっけ?」

 ……買った記憶がないんだった。
 知らぬ間に治っていたのである、手荒れ。
 原因を考えて、思い当たった。
 数年前、担当になって自転車も売るようになった。
 毎日のように数台は売れる。
 それらを売る前に整備する。

「自転車用のオイル……?」

 椿油を彼のヒダに滴らせる話よりも、プーさんの手首を切り落としたらハチミツの味がするだろうという話に似ていますが、事実、毎日のように自転車にペダルをつけたりしていると、数年でハンドクリームいらずになってしまったようです。休日もバイクいじってるし。そういえば皮膚科の先生が頭皮の荒れにオリーブオイルが効くとテレビで言っていた。なんにせよ、専用のモノでなくても油は油ということなんでしょう。

(逆説的にアレの代わりが椿油でよいのなら、肌荒れも治せる椿油の代わりにアレで手荒れも治るんじゃないかとか……ふくらますと下品な話になるのでやめましょうね。でもまあアレは高品質なタンパク成分なので飛良様の筋肉とお肌には良い効果が出るでしょう。薬品会社に勤める友人から聞いたのですが、コラーゲンとかQ10とかってのは実際には粒子が大きすぎて肌に塗っても吸収されるはずもなく、そのほとんどがプラシボ効果だそうだ)

 おじいちゃんとか、肌のひび割れを接着するための瞬間接着剤を買いに来たりするのですが、この冬は機械油をすすめてみようか。5-56を手のひらに吹きつける老人たち。なかなかシュールで奇妙な光景だろうなあ、と電車でBL読みながら苦笑いした私こそがシュールぢゃん。などと思ったシンデレラなのでした。

(余談ですが、大阪のホームセンターでは、日に三回は、

「551どこよにいちゃん旦那にたのまれてん」
551は豚まんですよ奥様?

 というボケツッコミが真顔で交わされる。551という数字は大阪近郊では産声を上げた瞬間からテレビCMですり込まれるもので、無理からぬ誤解だとは思うが、スプレー缶の並んだ棚の前に連れて行ってなお「ほんで、どれが551なん?」と、ゆずらない大阪のおばちゃんの強情さを、近ごろではちょっと可愛いとか思うこともある慣れきった自分に嫌気がさすことがあります)
Oblivion
 待望の邦訳『The Elder ScrollsIV:オブリビオン』をプレイ。次はドファンタジーを書いてやる、と宣言したのはいいものの、ファイナルファンタジーも3Dになった二作目でラスボス倒せず(いまだにまわりでこの話はよく聞く。最後の最後で能力が制限されていくという設定の意味がわからない。CGの多用がFFファンの一部で嫌われたというのがもっぱらの説だが、私はあの一作で「ラストまでプレイしたのにプレイの仕方によってラスボス倒せなくなるってなに?」と吠えたコアプレイヤーたちが多く離脱したというのが真相だと信じています。事実、初代からプレイしていた私は、あれ以来、FFに触れていない)。ドラクエは携帯機に行ってあげく発売延期で、もう私たちの知っているドラクエとは別物で。いっそファンタジーといえばGTAでありHaloな私にとって、PC RPG of the Year 2006受賞作であり『指輪物語』的世界でいちキャラクターになりきれるという『オブリビオン』の日本語化は、世界と私とをつなぐ架け橋のごとき出来事なのでした。いままさにファンタジーのなんたるかをこの身に教え込みたい私にとっては、渡りに舟の発売です。締め切りを片付けると同時に、買ってきました。プレイ中。と言いたいところなのですが。いや、事実、十数時間はプレイしたのですが。格闘詩人(勝手に作った職業)レベル4で盗賊ギルドの一員として精力的に他人の家に忍び込んでは引き出しを物色しては盗品を売りさばく仮想の毎日にハマりまくって睡眠時間も削りはじめたところだったのですが。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『リングオブライトの赤き光』のこと。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 もういちど書く必要もない。
 まったく同じことの繰り返し。
 段ボール、取っておいてよかった(涙)。
 もうねえ、サポートに上の『徒然』のURLもそえて送ってやりましたよメール。有償とか言い出したら、また話題にするぞという脅迫ですよこれは。否定しません。この国のコアxboxユーザーの数を思えば、うちのサイトが日に360関連の検索でヒットするその数字だって、ぜんぜん笑えない数字なはず。自分が販売業でクレーム処理とかしているのでよくわかるのですが、良ければ褒めて悪ければ大々的に攻撃する、こういう私のようなユーザーにこそ、誠意を見せるべきですよマイクロソフト。あのころ中三日で戻ってきたのを、このところでは二週間がデフォだったりするらしいですが(それだけ修理工場多忙ということだ)。月末には間に合うんでしょうね『Halo3』を予約していますよ、それなのに360発売と同時に購入したヘビーユーザーがソフトだけ持って本体が修理中なんてことになっていたら、私は私の持てる言語能力のすべてを動員してネガキャンはじめます。マジで。

 どれだけ熱暴走に気を付けたと思っている? 私もPC組んだりする一味だから、冷却のために金を使うのは当然だしやぶさかではないと思っているのですよ。でも360はどうしようもない。確かに妻が灼熱の真夏日に起動させてしまったりしたこともあったが、基本、クーラーが効いた部屋で360のまわりになにも乗っていないラックの上で起動しているのです。マイクロソフトだって知識なき一般ユーザーにジュークボックスのように使ってくれと言っていたでしょう? でも気を付けている私でさえ二度目。

 最初は単純なフリーズ。
 とはいえ、日に数回はフリーズするマシンでRPGをプレイするのが、どれほどストレスのたまるものか想像してみて欲しい。幸いにして『オブリビオン』はドアを開けるたびにオートセーブで、手動セーブもいつでもどこでもできるため、傷は少なかった。でもやはり湖の底のほこらに息も絶え絶えで潜って辿り着き弓矢を持った遺骨を三匹ほど日本刀でぶった切った瞬間に画面がとまったら心に傷を負います……また潜るのかよ……

 それでも私が一週間ほどその状態でプレイし続けたのはなぜか。
 それは私がXbox360を発売と同時に買ったコアユーザーだから。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『Xbox360自主回収』の話。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そう。
 このなかで私は「歓喜」と書いているが、そう感じる無償修理を受けるためには、条件がある。

●その内容は、特定のエラーコード(本体電源部のランプ(名称・リングオブライト)が三つ赤く点く)が発生した場合、購入後三年目までは無料で修理する、というもの。

 ……フリーズをいくら頻繁にしようと、リングオブデスが発動しなければ一年越えた本体は無償修理にならない。そうこうしているうちに、画面にブロックノイズが走って、かん高いビープ音がとどろきフリーズするという、まさに「おれもう壊れているよタスケテ」という愛機の悲鳴が聞こえはじめ、あまつさえその症状が起動画面で発生するようになってなお、リングは赤く光らない。

 それからまた数日。
 帰宅して眠る前に、酔った指先で360の電源を入れるのが習慣になったころ。もうモニタもスピーカーも電源は入れない。360を起動したら赤く光るかどうかの確認であった。一度同じ症状を経験しているだけに、確信はある。遠からず、この子は血に染まる……

 そしていま。
 めでたくRing of red。
 Ring of death。
 死の光。
 この痛み。
 赤く光るひとつ目を見つめながら、この一週間を思う。
 もうまともにゲームできなくなった愛機を「壊れるのを確認するために」毎日、ヒマがあれば起動する。
 完璧に逝くのを待っていた、この数日を。
 めでたく無償修理だ。
 けれど心が痛い。
 アメリカではもっと事態は深刻であるらしい。
 売るために無理したスタイリッシュなスリムボディは日本人のデザイン案が採用されたものだ。そのために熱がこもるようになったのはだれの目にも明らか。だったら売ったあとはもういいんじゃないか? 修理二度目の私に選択肢を与えて欲しい。私は迷わずそっちを選ぶ。

 「二倍の大きさで冷却ファンももっとうるさいが、決して熱暴走しない」

 もう愛してしまったマシンだ、醜くてもいい。
 ただ、二度と別れたくない。
 ゆるやかに逝く彼を見つめる日々を過ごしたくない。
 マイクロソフト様、壊れない新型、待ってます。

 そしてくれぐれも。
 『Halo3』までに彼を返してください。
HALO3
 約束です。
 破ったら……きっと私は変わります。
 ええ、脅しですとも。

(その後、カスタマーサポートに電話。以前とは違い流れ作業でさくさく話が進み、電源アダプターのランプはグリーンで本体は赤目だという時点で「本体の故障ですので本体のみを送ってください」と念を押される。一年前は渋る私に向かってハードディスクも送れと強要したくせに。それにともなう新たなトラブルが多発したのだと推測できる。他人の記憶媒体なんて預からないに越したことはないからね。で、問題の修理期間……「ご存じかとは思いますが、私どもが導入いたしました新たな修理プログラムによって吉秒様のケースでも無償修理とさせていただきますが、そのため現在、大変に混み合っておりまして……」おりまして? 「二週間から三週間ほど、お預かりすることをご了承ください」。……仕方ないけどさ。本当に『Halo3』までに戻ってくるかギリだ。『オブリビオン』プレイできなくなった。格闘詩人の私よさらば。ていうかさ、こちとらXboxLiveの料金を一年分前払いしているんだが。本体を持っていかれるなら、そのぶんは日割りで返金すべきでは? なんにせよ明日取りに来てくれるという。少なくとも二週間のお別れ。泣きそうだ)