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 なんの星の巡り合わせなんだか、小売業に携わる人ならその名をきいただけでため息をつく決算棚卸というやつが、年に二回、私の職場ではあるのですが、それがばっちりWの〆切月なわけで。昼間は延々と商品を数えてはパソコンに向かい、帰っては恋愛小説を書くというようなことをやっていると、人間、なんだかストレスというようなところを越えて、悟りのようなものに手が届きかけます。

 ほら、ものすごく細かな伝統工芸品を作っている職人さんなんかが、家事は一切できないとか、ジェンガやらせたら弱いとか。ぼくは機械になりたい、というウォーホルの名言を想い出す。職人て、なにかを捨ててなにかを得た人たちなんだと痛感するのです。たぶん今日私は、バイト君に数えてもらったら「いくらなんでもそんなに盗られるかよ」という数字が出てきたので、結局一から数えなおした数万本のカーワイパーゴムのカウント作業の最中に、なにかをなくしてなにかを得た。テトリス(よりもコラムスのほうが私はその状態によくなるが)で神がかったプレイをできるようになった瞬間、人間としての基本生活を送るためのなにか大切なものが、なにか失われるのにすごく似ている。

columns

 で、帰ってきて料理する時間もないので、冷蔵庫を見たら米ナスとズッキーニが入っていて(妻がコックなので、頻繁に妙な業務用香辛料や買ったおぼえのない野菜が冷蔵庫に入っていたりするのである)、朝作っておけるラタトゥユを作っていくかと思って作ったので、そのレシピでも載せておく。ていうか小説を書くことでいっぱいいっぱいで、だれのメールにも素っ気なくおもしろくもない返信を返してしまったりしていますごめんなさい。来月になったら遊びましょう。

 ラタトゥユを作りながら思ったのだけれど。
 エクストラヴァージンオリーブオイルというのは、なんだかエロい響きではないですか。
 直訳すれば「超処女」。
 ただの処女ではないわけで、意訳すれば「聖処女」とかそういう意味でしょう。
 オリーブという名の聖処女から搾り取った澄んだ液体。
 いかにも美味しそうだ(笑)。
 スプレッドタイプとかあると、炒め物に便利。

virgin

 ところで処女航海というのは、初めて海へ旅立つ船のことを指すのに、でも「はじめて体験する」ことを「処女」と表すのはなんかおかしくないかと思って辞書を引いたら、処女航海は「First voyage」という表記なのでした──「virgin」なんてどこにも使われていないので直訳すれば普通に「初めての船旅」──処女航海って訳した人のロマンというかエロ臭いなにかの意図を感じずにはいられません。
 というようなことを考えながら紅い炒め物をして汗だく。

 ラタトゥユ・レシピ。

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ズッキーニ、大きさによるが一個あれば充分。
ナス、まるい米ナスは大きいので一個。いわゆる長ナスなら二個くらいか。
ピーマン、二個
タマネギ、1/2個
ニンニク、2片
ローリエ、一枚
赤ワイン、少々

オリーブオイル、大さじ1
塩少々、こしょう少々

ブイヨンキューブ、1/2個
ホールトマト缶、1/2缶

1 ズッキーニとナスを輪切りにして水にさらす。ピーマンは手でぐしゃっとつぶして細かな破片に。タマネギは横でなく縦に切る(くし切り)。ニンニクは拳で叩きつぶす(飛び散るので注意)。
2 フライパン(炒め鍋)にオリーブという名の聖処女から搾り取った澄んだ液体を入れて熱し、ニンニクを投入。煙ってきたらズッキーニ、ナス、ピーマン、タマネギを加えて炒める。
3 トマト缶とブイヨンを加え、ローリエを入れて煮る。水気が足りなくて時間がかかりそうだなと思ったら、赤ワインで水気を足そう。
4 ナスがくたっとしてきたら、塩、こしょう。投げキッスを加える。完成。

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ratatouille

 レシピっていうか、トマトで夏野菜煮込めばなんでもラタトゥユと呼んで良し。私の好みとしては、熱いのをすぐいただくよりも、皿に盛って冷蔵庫でキンキンに半日ほど冷やすのが良し。仕事帰りに閉店間際のスーパーで半額になっているフライドチキンとフランスパンでも買って帰ってテーブルワインでがっつくのが正しい喰いかただと思う。ラタトゥユに肉を加えるのも手軽だが、なにせトマトの紅いのが飛び散ったりするので嫌だ。手を使わないと食べられない骨付き肉をトマトで煮るやつの気がしれん。なんにせよタバスコは必須。

 ちなみに雑学。ラタトゥユ(ratatouille)の語源は、ラテン語のtudiculare──かき混ぜる、の意。
 この料理も、『ジャンバラヤで喰うケイジャンの魂』の話。で語ったのと同じく、暑い地方でもズッキーニ(きゅうり)やトマトは獲れるからやむなくそれを煮込んで喰ったという料理なのであって、そう考えれば、これを熱々のまま喰うというのは本来的ではあるけれど、ラテンの魂ラティーノヒートになりきって想像するなら、そういうやむなく灼熱のもとで煮込み料理を喰っている人たちが、もしもそれをキンキンに冷やせる冷蔵庫なんてものを持っていたら、そりゃ冷やして喰うだろうってことで。どっちが正しいというような問題ではないが、冷やすのもやっぱり正しいと思う。

 ジプシーの少女がことことと鉄鍋で煮る。
 そういうのを想像すると、年に一度や二度作るくらいの料理にしては申し訳ない気になってくる。なんというかなあ、トマト=太陽という明るいイメージのはずなのに、どうしてこうあの辺りの煮込み料理というのは物悲しい曲が似合うのでしょう。鍋ひとつで生きていた過去。それを楽しむまでに余裕を持つようになった人類ののほほんさ加減が、なんか物悲しいのかも、と思ったり。

 わけもなく叫びたくなる。
 そういえば若くてして死んじゃったラテンの魂をウリにするプロレスラーは、始終、意味もなくテンション高くてわめいていたなあ、と思い出して泣ける。彼は象徴だったけれど、ラテンの血を引く人たちが、彼に熱狂し、彼のわけのわかんないテンションを、ラテンの血を引かない人たちだって好意的に見ていたことを、思い出す。
 生きるために叫ばなければならない。
 明日を得るために吠えなければいけないのだ。
 いま手に入れられるすべてを煮込んで、それを気合いで肉体と精神に昇華する、野生を忘れてはいけない。

 とか書き出す私の精神状態が不安(笑)。
 喰って寝よう。
 そして起きよう。
 今日も明日も。
 吠えるために、吠えるんだ。
 


第12回 第一次選考通過
     『(タイトル不明)』
第13回 第四次選考通過(最終選考落選)
     『幸せなモノ』
第14回 第二次選考通過
     『哀しみを癒すモノ』
     『ひとなつのみず』
     『僕の泣く声を聞け』
第15回 最終選考通過
     『みぎみみの傷』
第16回 第四次選考通過(最終選考落選)
     『なぁあお』
第17回 第四次選考通過(最終選考落選)
     『兎の瞳はなぜ紅い。』
第18回 第二次選考通過
     『兎はどこに逃げるのか。』
      編集部期待作・一席
     『とかげの月』
第19回 第三次選考通過
     『ふれうるきずに』
第20回 編集部期待作
     『アスプの涙』
第21回 第四次選考通過(最終選考落選)
     『バオバの涙舟』
第22回 第三次選考通過
     『ささやかな旋律。』
第23回 第三次選考通過(最終選考落選)
     『りんゑの宴、ぼくの唇。』
第24回 第三次選考通過(最終選考落選)
     『うさぎがはねた。』
第25回 第二次選考通過
     『愚かしく魔法使いは。』
第26回 第三次選考通過
     『幽閉の銀の箱』     
第27回 第四次選考通過(最終選考落選)
     『幻追い~とかげ~』
第28回 第四次選考通過(最終選考落選)
     『幻追い/リーリー』
第29回 第四次選考通過(最終選考落選) 
     『造形師ディクリード・フィニクスのヒーローな休日。』
第30回 第四次選考通過(最終選考落選)
     『幻追い~三結神~』
第31回 第三次選考通過
     『幻追い/少年鎖骨電光掲示板』
      第四次選考通過(最終選考落選)
     『ゲームの真髄。』
第32回 第四次選考通過(最終選考落選)
     『ルビオの世界にぼくらはいない。』


※回によって最終選考前の選考が第三次であったり第四次であったりするので、最終選考に到達して落選したものはそれを明記しました……してみて気づく、最終選考落選の数の多いこと……

 編集部期待作、二回。
 最終選考通過、一回。
 最終選考落選、十二回。

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 暑いし。
 額にアセモできたし。
 悩んだあげく今週の花火の発注をとめて売り切ったのに、どうやら今夜のトリビアで今年の市販花火ぜんぶ見せますみたいなトリビアやるみたいだし。
 台風が次々来るらしいですよ。
 バイク乗りには憂鬱なことです。
 そんなこんなで、もう気だるくてやってられない今日この頃ですが。

 〆切が近いので書いています。
 例の。10日の本誌発売とともにこのサイトのヒット数があがるのはいつものことで、まあマニアすじの皆さんがやってきてくれるとアマゾンで新刊まとめ買いとかしていってくれるので、アフィリエイト的には嬉しいんですが。
 悔しいので、迅速な反応とかしないでいました。
 吉秒匠とかググって来る人たち、私がここでなにを語っていれば満足なのだろう。
 それとも単純に小説読みに来てくれているんですかね。
 ごめんなさいW読者のみなさんに読ませられるようなものはここにはない(と、暗にそのほかのものならどこかにあると匂わせているのだが。さがしてください)。

 『伝言』BBSに、柚井黄菜子さんもやってきてくださって。
 もう充分に語ったし。

 ていうかすでに、半年前に語ったし。
 毎回おなじ話だと鬱になる。

 『ウィングス小説大賞で最終選考に残る方法』その1。

 なので、今回は、ここを掘り下げましょうか。

 『小説ウィングス編集長を憤らせる方法』の話。

 このとき書いた「つまり、「中高校生の、主に女性」とは言いかえれば「夢見る少女向け」ということであり、拡大解釈ではなく、小説ウィングス読者ならば当たり前に読みかえて「かつて少女だった、いまも夢見る少女な楽園の住人向け」と思い知らなければならないのである。この読みかえができずに書いてしまうと、楽園の番人である編集長に「なにこれ子供向け?」と鼻であしらわれることになる。 」という私の認識が、正だったのか誤だったのか。

 今回もだれもメダルを首にかけられなかったレースだったわけだが、最終選考とかいう程度のところに置かれているわけだし(ちなみに柚井黄菜子さまは私の右に立つツワモノなので、むしろこの賞の傾向と対策なんてものは『伝言』で彼女に質問してもらったほうがいいかもしれない。読みたかったなあ『プラスチックソウル』。謎めいたタイトルじゃないですか。シリコンチップに移植された美しき恋人の魂をポケットに入れて逃避行する無垢な少年のロードムービー的物語を勝手に想像したのですが。ああいいなあそれ、おれが書こうかなあ)。
 方向性は間違っていないということ。
 そう断定するならば。

 今回の私の作品は、「中高校生の、主に女性」をターゲットにして書いたものではなかった。書いた本人が言っているのですから。ターゲットはそこではないです。狙っているのは「かつて少女だった、いまも夢見る少女な楽園の住人」。あなた向け。
 タンクトップからはみ出た肩の筋肉の隆起に指を這わすことの隠微な悦びのニュアンスが、小娘どもにわかってたまるかというのだ。それは実際に他人の肌に指を、舌を這わせたことのある、もしくはそれを身もだえするほど夢想したことのある、そういう大人なあなたのために書いた物語。
 くそう、なにが悔しいってこの物語があなたに届かないことだよ。

 おっと熱くなりかけた。
 クールに行こう。
 なんだかんだといって、私の想うウィングス的とは、こういうことだ。

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 いいにおいがする……

 女の子はいいにおいがするって
 本当だったんだな

 それならあたしも初めて知ったんだよ
 男の子って あの時 とりはだたつんだなんて──……

妖精事件

 高河ゆん 『妖精事件』

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 コミケ出展一回分の収益でマンションを現金買いし税務署が会場に乗り込んできた、という伝説はあまりにも有名だが、そのエピソードも裏返してみれば、同人作家が金になると気づいて高河ゆんを獲得し一気にのし上がった、雑誌サウスとウィングスで有名な新書館の伝説とも呼べる。
 CLAMPもしかり。
 そして注目すべきは、黎明期のウィングスの象徴であるこの二人が、小説ウィングス創刊当時のウィングスが信条としていた「少年誌でも少女誌でもない」という中道の美学をその後も貫き、現在では主に少年、青年誌のほうをこそ主戦場としている、ということ。
 ていうかいまではもうどこの世界の人だかわかりません大先生たちは。

萌えるるぶHOLiC

 で、結局、いまではほかの出版社にこういう形でやられてしまったが、そもそも、そういうなんでもありな読者を限定しない老若男女を問わずに「好きなひとは好き」って感じがウィングス・クオリティ。「中高校生の、主に女性」というところを狙って「男のひとってイクときにびくんびくんてなって鳥肌立つものなのね」なんてセリフをヒロインに語らせるのは愚行だが、でもやはり私的には、いまでもそういうウィングス的な選択というものこそアリだと思うのでした。

 これがウィングス的。
 だいたい、それがそうでなければ、吉秒匠とググってここに来たあなたと私は、この世ですれ違うことさえなかったことでしょう。逆説的な話として、私はコミケに行ったことさえないという事実があって、それでもウィングス的なるものを語って書いている。
 さっき、なんでもありな読者を限定しない、と書いたけれど、それも逆説的に書けば、そこにはあきらかに「なにか」とは特定できないウィングス臭というものがあって、それは外せないということでもある。和食にかつおダシ、みたいな。「ここでダシを加えます」と書いてあったら、世界中のほとんどの人が言わずもがなでブイヨン・スープを加えるのだが、あえてだれも教えてはくれないが、和食の世界の人ならばかつおダシを加える。そういう、いわずもがなのウィングス臭。ないとダメなのです、新書館印ウィングス料理としてやっぱり。

 今回の審査評は、どこを読んでもそれに触れている。
 当たり前の、読者の嗜好に合わせること、という大前提。
 けれど、審査員すら明言できないウィングス臭なるもの。
 ええ、それゆえに、いくら言っても変わらないと思う。

 もっと具体的にこのあたりの読者をつかめ、と叫びたい審査員さまの意志は強く感じる。
 そもそも「中高校生の、主に女性」という一文を加えたことが、そういったニュアンスを伝えたいがためのものだったのだろう。
 でも、それは伝わらない。
 たとえば、講談社であり、集英社の漫画新人賞を見る。
 受賞者なしでも、トップの作品は掲載する。
 ほとんどクソのような作品でもだ(こっそり同意を求めるが、少年ジャンプの新連載ってあれどうよ? 確かに初期の荒木飛呂彦だってとんでもないデッサン力だったが、にしたって最近のは。本当に化ける可能性があるのかと疑いたくなる。でもその数撃つなかから実際に化けるのが出てくるのは編集者の新人発掘力のなせる技だ。すごい)。

 どんなレースでも、それ、いるでしょう?
 今回のトップはこうだった。
 ほら読んでみて。

「ああ、確かにこれでトップじゃ受賞者なしだよね」

 そこで思うものでしょう。
 もっとウィングス的なもの、書くべき。
 私が、それを書こう、と。

 これってこうやってネットとかで個人的に書く側が情報交換して切磋琢磨すべきものなんだろうか。そもそも同人誌即売会で売れていた作家を引き抜いて商業ベースにのせるという手法こそがウィングス的なるものなのだから、放置して育ってこいというスパルタも、それ的ではありますけれども。

 なんなんだろう、このレースのあとの脱力感。
 ねえキナコさん。
 競っている感じ、なくないですか。
 それぞれ個別に書いて、選ばれず悔いて。
 また個々に書いて。
 戦うってそういうものかよ。

 正直、ほかに楽しい戦っている実感のある舞台が私にもいくつかあります。ひとつには、審査員の顔が見えないってのもあると思う。ウィングスも漫画のほうは作家さんが審査員で、だとすると、なにを言われても「ああいう作品を書くあの人だからこういう言葉をあたしに吐くのね」という伝わりかたがある。

 でも、ウィングス小説大賞は名を明かさない編集さまが審査員。で、小説ウィングスって雑誌が審査員の作品なんだと思って読んでみると。

 統一感ってまったくないじゃないですか、今の小翼。
 印象として、新人であればあるほど、かつてのウィングス的なるものから脱却していこうとしている感がある。それが、もう長らくこの賞で大賞の出ない原因であるとも思う。私が書きたいものもそうだけれど、読みたいものも、そう。次のウィングス臭を嗅ぎたい。そこにつきる。
 いまのウィングスの先生がたは、別の雑誌で書いていても違和感ない。
 最初に書いた通り、黎明期のウィングス作家さんたちって、いまではもう王道であって、世界中でダシといえばブイヨンでも、ここではかつお、というようなマニアックなウィングス的なるものなんかでは絶対ない。

 それでも、そういうウィングス的なものをまだ書くべきなんだろうか。
 なんだか反抗したくなるのって私だけなんだろうか。
 W大好きな私が、Wでこの先読みたいものって、いまのWに、ない。
 あのころの、やまなしおちなしいみなしでデッサンも歪んだ個性的っていうかなんだそれっていう描写の、マンガで言えばえみこ山さんであり、押上美猫さんなりが、まさにウィングスだと私は思うんだが、だったら、次の書き手は、それに微塵も似ていない狂ったものを生み出さなければいけないのでは、と。そういうのが、いまの考え。

 飲んだことない飲み物。
 でも慣れると美味しい。
 やがてクセになるくらい。
 それでしか萌えられなくなるくらい、麻薬的。
 ウィングス臭。
 基本的にクサい。
 嫌いな人は鼻をつまむほど。

 ほかでは絶対読めない。
 それ大事。
 それ好き。
 でも普通のストーリー・キャラ小説を求めているように思える、最近のウィングス小説大賞の審査員評。ここだけの話だけれど、私の作風もそれに合わせてちょっとずつ軌道修正した結果、かつては絶対にそんなことできなかった、ウィングス応募作を他社の賞に回す、ということも可能になってきたのです。最近の結果はむしろWより良かったりする。
 自分が目指していたウィングス臭が、自分から消えて行っている気がするのだけれど、これでいいのか。ええのんか。

 でもだとしたら十年以上大賞のでない賞「だけを」狙う意味ってなくなってしまうと思うのは私だけでしょうか。そういう新書館のウィングスラヴな書き手が多かったからこそ、醸し出せていた異様に独創的なウィングス臭であり、次のその香りを求めてW読んでいる人たちも多いと思うのですが。
 なーんかな。
 かつてのウィングス読者をつなぎ止められる新人を発掘したがっている気がしてなりません。

 後ろ向きだ。
 「うは。すげ」というようなぶっ飛んだ誰かが大賞獲ってくださいよ、もう。編集部期待作さえ出ないのに大賞とかってもう狙って書くものじゃなくなっている。伝説の剣です。本当にあるのかどうかもわからない。

 そんなこんなでいまは確信犯的に「かつて少女だった、いまも夢見る少女な楽園の住人」な、あなた向けにヒロイン熟女にして書いている(失礼)。でも萌えられるからご安心を。届けばいいですけれど、今度は。なんだか人ごとのように言ってみる十周年。多少の達観もあるのかな。

 逢いたい。
 愛してる。
 ではまた。
(と、ほんとにあっさり語り終えてみる)



「カロテス伯爵が血のしたたる肉を食されたっ!!」

 あんまりにも私が悦んでいたので、閉店間際で手の空いたレジ・サッカー(袋詰め担当)の彼女がてけてけと走ってきて、私の凝視する水槽のなかをのぞき込んで悲鳴をあげた。
 本当にあげた。

 ことのはじまりは、魚を入れても入れてもことごとく死ぬという、呪いの水槽。
 バクテリアなんだか伝染病なんだか、それともペット売り場のものすごく良い場所にある巨大水槽なので、子供が寄ってきてはガラスを叩いて実現しないスキンシップを願うのがストレスになるのか。ともかく、その水槽には、もう仕入れた魚は入れられないだろうという結論に達し、しかし一等地。どうする、とみんなで顔を見合わせたとき、私を含めた数人が、目と目を合わせて異口同音に、言ったのでした。

「爬虫類、売りましょうよ」

 ペットを取り仕切る担当者が女性で、もともとトリマー出身の人なので犬猫には強いものの、カブトムシはがんばれるが、スズムシはちょっとイヤで、蛇とかげの類なんて見るのもダメという人で。でもうちの店ではカメは扱っていたから、業者から爬虫類の原価リストなんかは届いていて、私を含めた「熱帯魚とか犬猫とかまるで興味ないけれど、トカゲやヘビなら飼ってみたいよね。うちは昼間だれもいないから飼えないけどさ」という者たちは、虎視眈々とこの機会を狙っていたのでした。まったくもって、そんなやつらのだれかが、毒を盛って呪いの水槽を生み出したのではないかと疑うほどに、私たちは本気だった。

 しぶる彼女に、ねだる。

「世話はするから、コオロギも育てるから」

 そう……肉食のトカゲを飼うとなれば、一般家庭ではその辺りのことがネックになる。トカゲの子供たちは、虫しか食べない。ということは、トカゲを飼うということは、すなわちもうひとつの小さな水槽で数百匹のコオロギを無限増殖させるという飼育も行うことになるのである。そのうえ、砂漠に棲む彼らは、一日中、ライトを必要とする。日がな一日、日陰に身を潜めているくせに、降り注ぐ熱射がなければ体調を崩すのだ……熱いライトをつけたまま、家を留守にするのは、独り暮らしや、共働きの、昼間は自宅にだれもいなくなる家では難しい。
 せいぜい、窓のすだれを這っている、小さなアマガエルを見つけて嬉しくなるくらいが精一杯の日常よ。

「あたしは触らないからね」

 彼女も、鼻息荒い私たちに、ついに折れた。
 かくして、職場でトカゲ飼育という優雅な毎日をボクらは手に入れたのだった。

 ヒョウモンイエトカゲモドキ (6800円)
 フトアゴヒゲトカゲ (14500円)
 イロカエカロテス (3800円)
 イエアメガエル (2380円)
 クランウェルツノガエル (3800円)
 ロシアリクガメ (7800円)

 調子に乗って、空いていたいくつかの水槽にもカエルを入れた。
 ぬめっとしたのから、かさかさっとしたのまで。
 私の好みとしてはアメガエルの鮮やかなグリーンの濡れた肌にたまらないものを感じるのだが、やはり砂漠のトカゲたちのワイルドさは、エサをやると楽しい。仕入れて半月ほどで売れていってしまったが、リクガメなんてのは専用のドッグフードみたいなエサを皿に盛ってやるだけなので、ちっとも楽しくない。やっぱ肉食爬虫類の野生が美しいのである。

 二ヶ月ほど飼育して、彼らのカラダも大きくなってきたころ、次のステップに移った。
 昆虫から肉へとエサを移行するのだ。
 ベビーフードであったコオロギを卒業。
 大人の悦楽を彼らに教える日が来たわけだ。

 冷凍ピンクマウス (10匹入り 800円)

 ちなみにピンクマウスとは、いわゆる医療実験などに使われるマウスの生まれたばかりの目も開いていないピンクな赤ん坊を、冷凍したものである。ウシガエルなどの巨大爬虫類ならば、大人のネズミも食べるので、マウスをコオロギ同様に繁殖させても良いのだが、ボクらの大好き小さなトカゲたちは大きくなっても手のひらをはみ出す程度なので、ピンクマウスが生涯の主食となる。
 それにしても、小指の先ほどのマウスが一匹100円ほどだという値段設定は「スーパーで上等な鶏肉が山ほど買えるじゃないか」という気持ちになりそうだが、そこはそれ。ピンクマウスの利点とは、赤ん坊とはいえ、イッコの生物のまるまるぜんぶの屍体だというところにある。ピンクマウスを、彼らの口にはいるように、カッターナイフで斬りわけ、じんわりと解凍してみればよくわかる。ぬばりけのある、白いものや黒いものや、透明なものが、したたるようにこぼれ出す。脂肪、そして内臓。その他あらゆる体液。スーパーで買ってきた上質の鶏ささみでは、喰っても口のまわりが汚れない。それはすなわち、野生から遠いということなのだ。
 ピンクマウスでは、まだ骨が発達していないため、足りないカルシウムを、こういうもので補ったりもする。

 ピンセットでつまんだ内臓がはみ出す輪切りマウスの赤ん坊に、白い粉をまぶし、彼らの目の前で揺らす。
 彼らは、いったいなんだと思っているのだろう。
 いや、実際の野生を知らない彼らは、自然に跳ねまわっているネズミの赤ん坊を獲ったことなどないのだから、私のつまんで差し出しまるで生きているように踊らせるその肉片は、彼らにとっては、ただそういうものなのだろう。嬉しい。彼らの世界に、私は当たり前の一部であり、私の差し出すピンクマウスを追いかけて食らいつく、彼らにとって、世界はそういうものなのだ。

 夏が来て、死んだ金魚などもフトアゴヒゲトカゲやイエアメガエルがひと呑みにするほど育ち、水槽を覗いていくお客様も「ピンクマウスだけでもう大丈夫ですか」と訊ねるようになったころ(当たり前だが、冷凍庫にピンクマウスを常備しておけば良いという大人の状態になれば、コオロギは育てなくていいので、彼らを狙っているお客様は、毎週やってきては育ち具合を確かめていく。一日おきに100円のピンクマウスを喰わせるとして、月に1500円ほど。ペットショップで良い具合の大人に育つまで面倒見させるのが、賢い買いかただ。もちろん、愛が高じるとほかの客に買われてしまうことを想像して、いてもたってもいられなくなり、もう買って帰るっという状態になってしまうお客様も多い。愛とはやっかいなものさ)。

 私たちは、イロカエカロテスのことを「伯爵」と呼び始めた。

 その高貴なるたたずまいに反し、彼は幼い。
 巨大水槽の真ん中を金網で区切ってあるのだが、伯爵は、金網越しに隣人が私にピンクマウスをもらっているのを目ざとく見つけては、駆けよって金網に鼻頭をこすりつける。見るからに空腹なのである。そのうち、隣人までもがエサに見えてきたのか、一日中金網に体当たりするようになって、唇が削れ、紅い肉が見えるまでになった。自分が売り物であるという自覚のない伯爵なのだ。己の顔が削れるほど、毎日腹が減っている。

 それなのに、だ。
 輪切りのピンクマウスをやっても、伯爵は口にしない。
 目の前にあり、唇に触れている肉でさえ、顔をお背けになられるのである。
 伯爵は、コオロギは喜んで喰う。
 しかし、わかりきったことなのに、伯爵はその高貴さゆえに気がつかない。

 彼はもう、水槽のなかで育ち、大人になってしまっている。
 ベビーフードはあっさりとした淡泊な味だが、彼の野生はもうそんな虫ごときを何匹食べてもすぐに欲してしまう。
 彼はわからないのだ。
 まるで、あの伯爵のようである。

onmoraki

 美しいが、怖いことだ。
 完全に閉ざされた世界で、歪んだ自己完結。
 しかし、それでは動物として満たされない。
 花嫁が死ねば子は生まれぬし、虫だけ食べて生きられる肉食獣はいない。
 伯爵は、喰わねばならないのに。
 彼自身、なにがうまくないのかわからず、もどかしさが金網に自身をこすりつける自傷行為につながるのだろう。

 喰えよ、と。
 願ったのだ。
 コオロギの量を減らし、空腹にさせ、小さく切った肉片を与える。
 一度喰ってしまえば、わかるはず。
 その脂肪や、内蔵や、血の匂いは、お前が当たり前だと思っている乾いた虫の味からは遠く離れたありえないもののように感じられているのかも知れないけれど。そっちが本当なのだよ。お前は、他人の血で唇を濡らして生きる動物なのだ。受け入れるんだ……伯爵。

 顔を背ける彼に、歯がみする。
 そんな日々が続いていた。

 だから、昨日。
 てけてけと走ってきた彼女が、じっくり見たことのなかったらしい伯爵の姿をのぞき込み、その彼が、内蔵のはみ出したマウスの赤ん坊の下半身を口にくわえて、傷ついた唇から白い脚と尻尾をのぞかせているのを見て、悲鳴をあげたときも、私はエールを送り続けていた。

「飲みこめっ。うまいだろうっ!?」

 伯爵は、生まれて初めて、ほ乳類の下半身を飲み込もうとしていた。
 戸惑っているが、吐き出す気配はない。
 ただ、わからないのだ。
 はじめてだから。

 やがて、伯爵は肉を腹に収めた。
 きっと、消化には丸一日を要し、明日は熱いライトの下で身動きせずに過ごすだろう。他人の血肉が、自らのそれになってゆくのを全身で感じながら。変わりゆく自分に納得するだろう。そして満たされ、金網で自らを傷つけることもなくなる。

 私は、嬉しかった。
 駆け戻っていった彼女が、レジのコに気持ち悪いものを見たと報告している様子なのを感じても、笑みが止まらなかった。うわあネズミ食べてるトカゲ見て笑っているよヨシノギさん、と思われても仕方ない。イキモノが、そのイキモノとしての自分に気づいた瞬間に、見る者は笑んでしまうものだ。はじめて寝返りをうった、はじめてママと呼んでくれた、はじめてネズミの下半身を食べてくれた。血と脂肪で顔中をギラギラさせている伯爵に。
 笑まずにいられるか。

 この数ヶ月で、気づいたことがある。
 トカゲには表情がない。
 しかし、野生の肉食獣。
 とても貪欲に生きていながら、静かに辺りを見回している。
 このアンバランスさが、私は好きなんだ。

 クールに見えて実は情熱的。
 イキモノとしての理想だと、思う。
 わたしはトカゲになりたい。
 静かに見つめて。
 その心のうちですでに。
 絶えず、燃えたぎっているような。

frog

(余談だが「とかげ」の名を冠するサイト名で五年ほどやってきて、最近ではログをみると「とかげの」なになにというのをググって当サイトにやってこられる方が増えておりました。それなのに、一度たりとも実際のトカゲの話なんてしたことのない内容なので、心苦しく思っていたのです。これでやっと、雑談だけれどトカゲの話が置いておけることになって、それも嬉しい)